『剣のなかの竜』マイクル・ムアコック

 新訳による再刊エレコーゼ・サーガの二巻目。
 一応再読なんだが、例によって内容はすっかり忘れてしまっていた……。ただ20年前よりは、ずっと面白く読めたと思う。当時気になったあからさまなアレゴリー、符丁も、今読むと意外と鼻に付かないのは、自分も年をとって丸くなったということなのかな。
 舞台は並行世界が同心円状に接する「輪の界」。設定はユニークだが、近年のムアコックの作品に典型的な観念先行の舞台で、どうにも世界の広さを感じられないのが辛い。ただ、最初の舞台である巨大船の退廃的で陰鬱なイメージは、さすがムアコックらしくて好きだ。現実の歴史への干渉も、後のエルリックの新シリーズで繰り返される事になる主題だが、この本の最初の版で読んだ時は、ヒトラーが登場するシーンで「おお!」とびっくりしたものだった。
 実を言うと以前の版で一番面白かったのは、反英雄、反エピック、反トールキンの解説だったのだが、今回の版には無い。訳者が代わったので仕方が無いが、ちょっと残念。

剣のなかの竜―永遠の戦士エレコーゼ〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)

剣のなかの竜―永遠の戦士エレコーゼ〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)

はてな年間100冊読書クラブ