『スクレイリングの樹』マイクル・ムアコック

 エルリック新三部作も二巻目。今回はアメリカ大陸を舞台に、ウーナ、エルリック、ウルリックの三人を主人公に物語が進行する。
 時間も空間も混乱した世界で、三者三様の視点から語られる物語が、カットアップ的に絡み合っていくところが面白い……と言いたいところだけど、その割には舞台も目的も抽象的過ぎるのが辛い。無数の多元宇宙をその枝葉とする世界樹、というイメージは、事前に想像していた以上に鮮烈で素晴しかったのだけれども。
 特にウーナの章はストーリー展開が散漫に感じる上に「ました」「でした」が延々と続く単調な文体で、読み進める気力が続かず苦労した。ムアコックの長篇で、こんなに読みづらかったのは初めてだ(悪名?高い『暗黒の回廊』『グローリアーナ』はまだ読んでないが)。
 もっともエルリックの章で、「現実」の世界での遍歴が語られる部分には、さすがに興奮する。なにしろあのエルリック神聖ローマ帝国やらビザンチン帝国で騎士稼業を営んでいて、さらにはヴァイキングと一緒にアメリカ大陸に渡ったりするんだから。
 また、「現実」の存在であるアヤナワッタが「フィクション」の自己像であるハイアワサと夢(ドリーム・クエスト)を通じて干渉しあっている、という描写など、ムアコックのフィクション観が垣間見えて、興味深い。

スクレイリングの樹―永遠の戦士エルリック〈6〉 (ハヤカワ文庫SF)

スクレイリングの樹―永遠の戦士エルリック〈6〉 (ハヤカワ文庫SF)

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