『黒曜石のなかの不死鳥』マイケル・ムアコック

 エルリックに引き続いてエレコーゼ・サーガも新版刊行開始。エルリック最終巻『白き狼の息子』で、エレコーゼとのリンクが示されていたので順当な流れではあるのだけれど、初読の人がこの順序で読んだら面食らうだろうなあ。自分は「永遠の戦士」(旧題「永遠のチャンピオン」)も表題作も既読なのだけれども、十数年ぶりの再読ということもあってどちらも新鮮な気持ちで読むことができた。
 それにしても今「永遠の戦士」を読み返してみると、完全な異世界を舞台にしたファンタジーであるのに、執筆当時の時代の空気をひしひしと感じるのが面白い。原著が出版されたのが1970年*1。「デビルマン」や平井和正の「死霊狩り」*2が72年。この手の「絶対的な敵対種族との抗争の果てに、人類はその本性をさらけ出し、ヒーローたるべき主人公に絶望を与える」というタイプの物語が、洋の東西問わず同時期に出現しているのは面白い。そういう時代、だったんでしょうな。
 ついでに最後、人類**で綺麗さっぱり終わるというのも、いかにも冷戦時代らしい感じではある。今ならもっとグダグダしそうなところ。
 一方、「黒曜石のなかの不死鳥」の方はまったくといっていいほど筋を覚えてなかったので、まるで初読のような気持ちで読めた(ちょっと得した気分)。設定的には、前年に書かれた『白銀の聖域』と良く似ている様に思う。
 死にかけた太陽。堕ちた月。氷河と岩山、海面後退で煮詰まった海しかない荒涼とした光景。無気力で退廃的な人類社会。終末期の未来世界の描写はさすがイギリスSFのお家芸と言うか、陰鬱かつエキゾチックでぞくぞくする。個人的には、ここのあたりが一番楽しめたのだった。

黒曜石のなかの不死鳥―永遠の戦士エレコーゼ〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

黒曜石のなかの不死鳥―永遠の戦士エレコーゼ〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

はてな年間100冊読書クラブ:64冊目)

*1:ただし原型中篇が発表されたのは62年。

*2:原型となった「デスハンター」は69年。