最近DVDで観た映画『スパイダーマン3』

 スーパーヴィランを三人も出して話がまとまるんかいな、と思って観てたら、なんとなく収まるところに収まってて、ある意味ほっとした。でもサンドマンとヴェノムは、どちらか一人にまとめても良かったような気がするなあ。サンドマンのエフェクトは想像以上に迫力あって良かったけど、ヴェノムの方はちょっと凶悪さが足りない。やっぱり嫌々出したのかねぇ。
 それにしてもヴェノムの素の登場シーン、ピーターとMJがイチャイチャしてる横にいきなり隕石が落ちてくる唐突さには、笑ってしまった。その他ツッコミどころの多い脚本ではあったけれど、宇宙生物に取り付かれたピーターの思わず失笑してしまう「ワル」ぶりとか、深刻な展開なのに意図的にマンガっぽい演出が目立ってたりして、愛らしいというか、ちょっと憎めない映画。

『ディズニーとライバルたち―アメリカのカートゥン・メディア史』有馬哲夫

 アメリカのカートゥーン映画の歴史を、ウォルト・ディズニーを中心に、フライシャー兄弟、ポール・テリー、ウォルター・ランツなど、もっぱらその製作者たちに焦点をあてて紹介した本。以前から興味を持っていたのだけれども、刊行当初から様々な人によって内容に間違いが多いことが批判されていた本でもあり、さすがに金を出して読む気にはなれなかった。
 (この件に関しては、http://homepage3.nifty.com/disneytorivaltati/を参照のこと)
 ところが最近これを地元の図書館で発見したので、ちょっと借りて読んでみたら、意外なことに結構面白い。以前カートゥーン・ネットワーク「レイトナイト ブラック&ホワイト」枠で、無声時代から30年代くらいまでのカートゥーンを流していて、よく観ていた。名前だけ知っていたイソップス・フェーブルやアルファルファ爺さん、ウサギのオズワルド。後期のつまらない時期の作品が主だったが、ベティ・ブープ。そして何よりフィリックス。それらの作品の背景が分かって、トリビア的に楽しめたということもあるし、そもそもアニメーションという表現手法自体を、まだ手探りで模索していた時代から始まる、山っ気たっぷりの経営者たちの栄枯盛衰のドラマが実に味わい深い。
 ……のだけれど、やっぱり間違いの多さには困ったもんだ。自分の様にさほど詳しくない者でも、おかしなところ、妙な記述を次々と発見できるくらいだから相当なものなんだろう。例えば「フル・アニメーション」という語の使い方が変、だとか、普通「ヘックルとジェックル」じゃなくて「ヘッケルとジャッケル」だろう、とか、いくらなんでもチャック・ジョーンズに古いワーナー作品を売り飛ばす権限は無いだろう、とか、『スペース・ジャム』をケーブルテレビのチャンネルと思い込んでる、とか……。その他、間違いとは言えなくても、妙に直訳調で日本語としておかしかったりするところも多い。本編前の人物紹介から始まって万事この調子なので、全体ではどれだけ間違いがあるかと思うと、げんなりしてしまう。いくら面白くても、当の記述に信用が置けなければ、この手の本としてはどうしようも無いものなあ。類書が少ないジャンルなだけに、なおさら残念。結局この手の歴史に関しては、ウェブ上でカートゥーン:アニメーション100年史などを読んだ方が、ずっと良さそうだ。

ディズニーとライバルたち―アメリカのカートゥン・メディア史

ディズニーとライバルたち―アメリカのカートゥン・メディア史

はてな年間100冊読書クラブ 95冊目)

十一月の近刊予定から、気になる本

ハヤカワ・オンライン|早川書房のミステリ・SF・ノンフィクション

日本SF全集・総解説 2,100円
日下三蔵(著)
刊行日: 2007/11/25
架空の日本SF全集を編集する、というコンセプトで贈るファン待望の通史的ブックガイド。SF黎明期から一九八〇年代前半までを3期に分け、計44作家の作家論・作品紹介を網羅した充実の一冊!

 S-Fマガジンに連載していたものが単行本に。ブックガイドとしてはユニークな形だけど、こういうのって、好きな人なら結構妄想するものだよね。いろいろな人に"編者"になってもらって理想の全集を考えてもらう、というのも面白いかも。

剣の騎士 1,155円
マイクル・ムアコック(著)
刊行日: 2007/11/10
〈〈永遠の戦士 コルム1〉〉〈紅衣の公子〉コルムの冒険を描く「剣の騎士」「剣の女王」「剣の王」の3長篇を収録

 ムアコック再刊シリーズ。今まで短めの長編は二冊で一冊にまとめていたけど、コルムはトリロジー×2だからどうするのかな、と思ってたら三冊一まとめで刊行。この点に関しては創元のホークムーンも倣って欲しかった。

アイ・アム・レジェンド 840円
リチャード・マシスン(著)
ISBN: 978415 刊行日: 2007/11/10
ジャンル: SF
〈ウィル・スミス主演映画化〉突然蔓延した伝染病により全人類が吸血鬼と化した絶望の世界。(『地球最後の男』改題)

 マシスンの古典的名作が復刊。これは楽しみ!ロメロに始まる「現代型」ゾンビの祖となった作品です。


 あと、今月発売の本だけど、スティーブン・J・グールドの『神と科学は共存できるか?』は是非読んでみたい。
 ライバルであったドーキンスが、宗教を百害あって一利無しと切り捨てているのに対し、グールドの方は(自身は無神論者ながら)宗教に容認的な考えを示していたらしい。果たしてそれは寛容なのか、それとも日和見なのか。
 個人的に、他の点ではドーキンスの方を支持したいけれども、この問題に関してはグールドの考えの方が好きだ。ちょっとドーキンスは厳しすぎるというか……。

神と科学は共存できるか?

神と科学は共存できるか?

『スキャナー・ダークリー』

 リチャード・リンクレイター監督による、ロトスコープ方式の長編アニメーション。DVDで視聴。
 P・K・ディックの小説は数多く映画化されたが、ここまで原作に忠実な映画も初めてなのではないかと思う。およそ娯楽映画向けの話じゃないのに、よくこんな金のかかりそうな方式で映画化したもんだ。
 もっとも初めこそ目を見張った鮮烈なビジュアルも、話が進むにつれて目の方が慣れてしまい、視聴者側の感覚として実写と変わらなくなってしまったのは、もったいないと思った。終盤になると、ついついこれがアニメであることも忘れてしまったりして。ものすごい手間が掛かってるのに、それに見合う映画的「意味」がどれだけあったかと思うと……。やはり、どちらかと言えばインパクト勝負の短編映画向けの手法なのか、それとも同じディックでも『パーマー・エルドリッチの三つの聖昏』のような、サイケデリックなビジュアルが頻出するような原作の方が合っていたのか。
 とは言え冒頭の、ムシが身体中にたかるバッドトリップの場面は必見。自分は虫嫌いなので思わず悲鳴を上げそうになってしまったが、それでも目が離せない強烈なインパクトがある。あの何ともいえないゾワゾワ感は、実写でも純粋なアニメでも無い、ロトスコープならではの質感と動きあってこそのものだと思う。

スキャナー・ダークリー [DVD]

スキャナー・ダークリー [DVD]

『音を視る、時を聴く [哲学講義]』大森荘蔵、坂本龍一

 その昔朝日出版社から出ていた本が、何故か突然、今年の4月に文庫化されたもの。
 実は一度、高校生の頃の頃に読んでいて、ちんぷんかんぷんだった覚えがある。今なら大丈夫だろうと思って手を出したら、やっぱりちんぷんかんぷんだったのが情け無い。坂本龍一を生徒役として大森哲学の講義を受けるという体裁なのだが、何と言うか、両者とも素人よりも高い位置でお互い感覚的に理解しあっていて、そのままどんどん話が進んでいくので、自分には敷居が高すぎた。
 もっとも「我々が未来を知覚するとはどういうことか」に関連しての、フィクションを巡る下のような考え方は、面白いと思った。

仮にヒューマノイドを、あるSF作家が考えたとしてもそれは物体としては本物であり、重さがあり電気抵抗があり、それからある音を出す、そういうものとして立ち現れてくる、私はそう思います。つまり簡単に言えば、作家が世界を、文字どおり創り出すんじゃないでしょうか。(中略) ですからここで坂本さんが自由に新宿の都市改造を考えれば、実際その改造された新宿は改造されない新宿と同じような資格で立ち現れると思います。ただ、それを写真に撮ることもできず、見物する事もできず、坂本さんが想像したホテルに泊まることもできない、知覚的には泊まれない、それだけです。それだけというのは言い抜けになりますが、そこが違います。広い意味で、この世に存在するという意味では、このホテル・プラザも、坂本さんが、空想したホテルと同じものだと思います。
(p200)

 その他「今現在とはどの程度の長さの時間か」を巡る対話とかも興味深い。もっとも「なんとなく興味深い」より深く理解する事ができないのが、歯がゆい訳だが……。これらの考え方について、現在の認知科学脳科学の知見なども絡めて、分かりやすく論理立てて書いたものがあれば、是非読んでみたい。

音を視る、時を聴く哲学講義 (ちくま学芸文庫)

音を視る、時を聴く哲学講義 (ちくま学芸文庫)

はてな年間100冊読書クラブ 90冊目)

ジェニーはティーン☆ロボット#40(最終話):CSニコロデオン

zeroset2007-10-08

 「ジェニー」もいよいよ最終回です。ああ……。
 と、言っても、全然最終回らしくない話なんですけどね。

燃えろ侍魂!の巻

 日本に怪獣キメラゴンが現れた。街で暴れる怪獣を退治しようと、一人の侍ロボットが颯爽と立ち向かう。ところが彼は、自分の事を侍だと思い込んでる、ただのサムライ・ブランドの掃除機。怪獣相手にまったく歯の立たない彼を救ったのは、ジェニーだったが……。
 カリカチュアを旨とするカートゥーンからして、ステロタイプの「間違った日本像」も全然あり、というのが自分の基本的な考え。サムライとかゲイシャが、新幹線や東京タワーと一緒に出てたって良いでしょう。とはいえ、さすがに今回は強烈だった。「ジェニー」の美術デザイン的に、余計キッチュさが強調されるのかなあ。……ていうか、モロ中国入りすぎでしょ!
 掃除機ロボットが「そうじさん」という名前なのが可笑しい。原語ではVac-sanって言ってるのかな?

ウェイクマン家最大の危機!?の巻

 ウェイクマン博士が発明大会に出した発明品が、突然暴走した。そしてその夜、ジェニーの妹たちが博士を襲う!……という話。
 久々にXJシリーズの妹たち全員が活躍。アトム然り大鉄人然り、きょうだいロボ同士の戦いというのは、お話的には盛り上がるもので……なんて思ってると、あっさり妹たちを破壊しまくってるのに笑った。XJ8がジェニーより強い理由―これは、ジェニーだけリモコンに抵抗を示している理由でもあるか―とか、なかなか興味深い場面もあって、面白い。それにしても、XJ6は可愛いなあ。
 しかし一応最終回だというのに、コレ

がラストシーンというのは、ある意味スゴい。まあ、カートゥーンらしいといえばらしいですね(突然虎に食われてオチ=打ち切られたということに対する皮肉、というのは穿ち過ぎな見方かな?)。
 と、いう訳で、一応これでレギュラー・シーズンは終了。しかし長編エピソードが未放映である他、25話から30話くらいにかけてまだ観てないエピソードがあるので、自分の中では全然「終わった」感じがしませんねえ。とりあえず、長編エピソードを待ちながら、観てない話を補完しようかと。
 そしていつの日かまた、新しいエピソードで活躍するジェニーを目にする事が、出来ますように。

『20世紀SF1 1940年代 星ねずみ』中村融、山岸真編

 世紀の変わり目の頃に刊行された年代別アンソロジー、「20世紀SF」シリーズ。当時、買うだけ買って解説と後書きだけ読んだまま、『1990年代』以外はそのまま積んでしまったものだが、改めてきちんと読んでみることにした。
 で、『1940年代』編だが、さすがに古色蒼然としているだろうな……と思って読み始めたら、いやいやどうして。アシモフ「AL76号失踪す」あたりはさすがに古さを感じたが、他はほとんど時代を意識しないで楽しむ事ができた。ウィリアム・テン「生きている家」冒頭の、生き生きとした会話(一読しただけでは、何を喋っているのか理解できないところが、また現実的)の楽しさが示しているように、さすがにこれだけの時間を経て残っているものは、時代に左右されない洗練を身に付けてるものだなあ、と思った次第。
 既読作はブラッドベリ「万華鏡」ハインライン「鎮魂歌」スタージョン「昨日は月曜日だった」。「万華鏡」は、「刺青の男」所収の訳のほうが良かったように思うが、大分昔に読んだものだし、初読のインパクトも割り引いて考えると、どうなんだろという気はする。
 個人的なベストは、C.L.ムーアの「美女ありき」。60年も昔に、ポストヒューマンの高揚感と人間性の喪失への不安を描ききっている先見性、それにも増して官能的なまでに流麗な文章が素晴らしい。ブラウン「星ねずみ」も、ちょっぴり寂しく、洒落たエンディングが愛らしくて好み。

はてな年間100冊読書クラブ 92冊目)