『スキャナー・ダークリー』

 リチャード・リンクレイター監督による、ロトスコープ方式の長編アニメーション。DVDで視聴。
 P・K・ディックの小説は数多く映画化されたが、ここまで原作に忠実な映画も初めてなのではないかと思う。およそ娯楽映画向けの話じゃないのに、よくこんな金のかかりそうな方式で映画化したもんだ。
 もっとも初めこそ目を見張った鮮烈なビジュアルも、話が進むにつれて目の方が慣れてしまい、視聴者側の感覚として実写と変わらなくなってしまったのは、もったいないと思った。終盤になると、ついついこれがアニメであることも忘れてしまったりして。ものすごい手間が掛かってるのに、それに見合う映画的「意味」がどれだけあったかと思うと……。やはり、どちらかと言えばインパクト勝負の短編映画向けの手法なのか、それとも同じディックでも『パーマー・エルドリッチの三つの聖昏』のような、サイケデリックなビジュアルが頻出するような原作の方が合っていたのか。
 とは言え冒頭の、ムシが身体中にたかるバッドトリップの場面は必見。自分は虫嫌いなので思わず悲鳴を上げそうになってしまったが、それでも目が離せない強烈なインパクトがある。あの何ともいえないゾワゾワ感は、実写でも純粋なアニメでも無い、ロトスコープならではの質感と動きあってこそのものだと思う。

スキャナー・ダークリー [DVD]

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