『音を視る、時を聴く [哲学講義]』大森荘蔵、坂本龍一

 その昔朝日出版社から出ていた本が、何故か突然、今年の4月に文庫化されたもの。
 実は一度、高校生の頃の頃に読んでいて、ちんぷんかんぷんだった覚えがある。今なら大丈夫だろうと思って手を出したら、やっぱりちんぷんかんぷんだったのが情け無い。坂本龍一を生徒役として大森哲学の講義を受けるという体裁なのだが、何と言うか、両者とも素人よりも高い位置でお互い感覚的に理解しあっていて、そのままどんどん話が進んでいくので、自分には敷居が高すぎた。
 もっとも「我々が未来を知覚するとはどういうことか」に関連しての、フィクションを巡る下のような考え方は、面白いと思った。

仮にヒューマノイドを、あるSF作家が考えたとしてもそれは物体としては本物であり、重さがあり電気抵抗があり、それからある音を出す、そういうものとして立ち現れてくる、私はそう思います。つまり簡単に言えば、作家が世界を、文字どおり創り出すんじゃないでしょうか。(中略) ですからここで坂本さんが自由に新宿の都市改造を考えれば、実際その改造された新宿は改造されない新宿と同じような資格で立ち現れると思います。ただ、それを写真に撮ることもできず、見物する事もできず、坂本さんが想像したホテルに泊まることもできない、知覚的には泊まれない、それだけです。それだけというのは言い抜けになりますが、そこが違います。広い意味で、この世に存在するという意味では、このホテル・プラザも、坂本さんが、空想したホテルと同じものだと思います。
(p200)

 その他「今現在とはどの程度の長さの時間か」を巡る対話とかも興味深い。もっとも「なんとなく興味深い」より深く理解する事ができないのが、歯がゆい訳だが……。これらの考え方について、現在の認知科学脳科学の知見なども絡めて、分かりやすく論理立てて書いたものがあれば、是非読んでみたい。

音を視る、時を聴く哲学講義 (ちくま学芸文庫)

音を視る、時を聴く哲学講義 (ちくま学芸文庫)

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