赤毛のアン 第50章(最終話)「神は天にいまし、すべて世は事もなし」:CSアニマックス

 とうとう最終回。ある意味楽観主義的な最後ではある。しかしこれもアンの成長を細やかに描き、様々な“試練”の後にたどり着いた結論であって、安直さを感じさせないのが素晴らしい。悲観的になるのは簡単だが、浮世離れせずに、楽観主義に説得力を持たせるのは、難しいものだ。それをやってのけた原作者とアニメのスタッフには、本当に敬意を表したい。

  • 薄荷の香りの中、玄関で腰を降ろして佇むアンとマリラ。悲劇的な出来事が続いた後だけに、この落ち着いた雰囲気には癒される。
  • リンド夫人はアンが大学を諦めた事に賛成する。もっとも、それは女に高等教育は必要無いという考えからのものなのだが。ま、いかにもリンド夫人らしい考え方ですな。次いで、夫人はギルバートがアボンリーでの教職をアンに譲ったということを伝える。ここでまたマリラが涙ぐんでるのが、何とも・・・。それにしてもリンド夫人のギルバートへの評価は高い。こういう人物に好かれているというところに、ギルバートの人となりが見て取れるな。特に後半は、存在感の大きさの割に、ギルの人物描写はほとんど無かったから、こういうちょっとしたシーンが重要だ。
  • ギルと比べると、ジョーシー及びパイ家の人間の評価はヒドイな・・・。代々に渡っての憎まれ役というのも凄い。
  • リンド氏、最終回にして初登場!影薄そう・・・。夫人の「マリラはすっかり穏やかになったもんだ」という言葉が感慨深い。もっとも、アニメの描写では、穏やかになったというよりは、衰えたという印象が強すぎるのだが。
  • ジョセフィンはアンの決断を責めるが、今は幸せな気持ちだというアンの言葉に拍子抜けしてしまう。マリラすらネンネ扱いというのは凄いな。それにしてもダイアナという姪がいるにも関わらず、アンさん、アンさんばかり言っているというのは、いかがなものか。それだけアンが魅力的だという事だが、ダイアナ(及びそれを見ている、大多数は「普通の子」である視聴者)が浮かばれないよ・・・。
  • と、思っていたらちゃんとフォローする描写があるのが嬉しい。気落ちするジョセフィン叔母さんを気遣い、肩に手をやるダイアナ。そして、テーブルを囲んで、皆で楽しくカード遊びをしている描写に続く。これがダイアナ最後の場面(アンの想像除く)で、完全にアニメオリジナルのシーンだ。アンがマリラを寝かしつけているシーンが交錯するのも、良い演出。
  • マシュウの墓参りの帰り道、アンはギルバートに出会う。ここでギルバート、会釈してそのまま通り過ぎようとするのが、いかにも彼らしい。アンはギルバートを呼び止め、学校を譲ってくれた礼を言う。・・・この一連のシーンは、物語のクライマックスだけあって、細やかな演技が目に付く。礼を言いながら、手を差し出すアン。ここでギルがしばらく握手に応じないので、ちょっと手を引っ込めようとするのが、アンのためらいがちな気持ちを表していて、いい感じ。しかしアンの言葉が終わるや、ギルバートは破顔してしっかりと彼女の手を握る。「これで仲直りできるかな?」その言葉に、赤面して手を引っ込めようとするアンだが、ギルは手を離さない。「本当になんて頑固なおばかさんだったんでしょう」という台詞が可愛い!ここでギル、感極まって両手でアンの手を握りしめ「僕達、素晴らしい友達になろうね!」ああああ・・・身もだえしたくなるくらい、良いシーンだなぁ!実を言うと俺は、映画でもアニメでも恋愛話はあまり好きじゃ無かったりするんだが、しかし、そんな俺でも、このカップリングばかりは心から祝福したくなるよ!ちょっと後年の「耳をすませば」のラストシーン「結婚しよう!」を思い起こさせるところもあるね。
  • その夜、窓辺に座り、ステラとステイシー先生への手紙を書くアン。マシュウを亡くし、財産を失い、大学進学という夢まで断たれたのにも関わらず、アンの言葉には未来への希望と夢が満ちていた。「狭いように見えるこの道を、曲がりくねりながらゆっくりと歩み始めたとき、広い地平線に向けてひたすら走りつづけてた頃と比べ、周りの美しいものや人の情けに触れる事が多くなった気がするのです」「むろん、広い地平線のかなたに聳え立つ、高い山のことを忘れてしまった訳ではありませんし、何者も、持って生まれた空想の力や、夢の理想世界を私から奪う事は出来ません」社会の中の自分、という観点を確立すること。それでいて、理想を持つ事を諦めないこと。大人に成長するというのは、こういう事である“べき”なんだろうな。まぁ、それがそう簡単に出来る事じゃないから、イロイロと苦労もある訳なんだが・・・それでも、この言葉は忘れないようにしたいもんだ。
  • アンはロバート・ブラウニングの詩の一節を引用する。「神は天にいまし、すべて世は事もなし」

 この世を称え、全肯定する言葉を持って、この物語は幕を閉じる。余韻のある素晴らしいラストシーンだと思う。ちなみに自分は、あえてアン・シリーズの続編は読まないようにしている。その後のアンの人生に興味があるのは確かなんだが、やはり一種の蛇足だと思うのだ。