『地底国の怪人』『ピピちゃん』手塚治虫

 初期手塚治虫作品を二作品、マンガ喫茶で読みました。
 『地底国の怪人』は手塚の長編三作目。日本初のアンハッピーエンドな漫画、ということで名高いけれど、『ロストワールド』などの初期代表作ほどの力みは感じられず、どこかとぼけた味わいなお話。なにせ地底探検の話かと思っていたら、あれよあれよと言う間に舞台は地上へ、シロアリ人間の女王がギャング団のようなテロ組織の首領に収まったり、ウサギが浮浪児やら天才少女やらに化けてみたり。ふにゃふにゃした描線(いわゆる「描き版」ゆえのことだろうか)とあいまって、えらく微笑ましい気持ちにさせてくれます。
 『ピピちゃん』は『ジャングル大帝』などを連載していた頃の作品。本人も支離滅裂と評しているように、これまた行き当たりばったりな展開のお話。それにしてもこのころの手塚の絵、反則的なほど可愛い。
 人口問題解消のため、我が子を改造して水棲人間を作り出す、という開幕は『第四間氷期』を思わせるせるけど、母親がえらく軽い調子で「あなた、坊やを実験台にしましょうよ」とか言ってるのが笑える。ネモ船長もどきの怪人が出てきたり、生きている車(「カーズ」とか「ぶぶチャチャ」みたいな感じ)なんてものが出てきたり、なんでもありな展開が楽しいね。
 ところで、手塚治虫が「妹」という存在にこだわりを持っていたというのは、様々な作品から読み取ることが出来るし、多くの論者も指摘しているところ。で、この作品にはキャラクターとしての「手塚治虫」とともに、珍しく妹さんも一緒に出演しているのが興味深い。可愛らしいお嬢さんとして描かれているんだけど、手塚のことは一貫して「アニキ」と読んでるのが面白い。本当にこんな呼び方をしていたかは知らないけれど、どこか不思議なリアリティがあるじゃないですか。ところでこの漫画で手塚治虫、妹の寝ているベッドに潜り込んだりしてるんだよなあ……。

地底国の怪人 (手塚治虫漫画全集)

地底国の怪人 (手塚治虫漫画全集)

ピピちゃん (手塚治虫漫画全集)

ピピちゃん (手塚治虫漫画全集)