『動物の意識 人間の意識』デリク・デントン
実験生理学者であるデントンが、「意識」について論考した本。はじめに断っておくが、本書はかなり読み辛かった。全体的に訳が生硬ぎるし、なかには何べん読み返しても意味の取れない文章もあったりして、そういう所は誤訳なんじゃないかという気さえする。また、論の随所にインタビュー*1を挿入する、という構成も混乱の元かもしれない。それでも内容そのものは面白く、刺激に満ちた良書だと思う。
本書は大きく分けて二つのテーマについて扱っている。「動物に意識はあるのか。あるとすれば自意識はあるのか」という問題、そして心脳一元論VS二元論だ。
最初の問題について、著者の考えは「昆虫レベルの生物にも意識は存在する。ただし自意識は、おそらく類人猿と人間のみが獲得した能力だろう」というものである。著者は模倣を行うことと、先を予測する能力があることを意識の存在を示す証左として考えている。個人的には少し違和感があるところではあるが、考え方としては明確だと思う。それに意識の定義について、あまり踏み込むと「中国語の部屋」問題に行き着いてしまうような気もするし。また、避けられない死を前に、ネズミが生を「あきらめる」という実験結果は興味深い。
二番目の問題については、心脳二元論、要するに非物質的な「魂」が心の実態である、という考え方をとるノーベル賞科学者エックルス卿と著者との対話が面白い。エックルスの論は対談中で既に論破されている様に思うが、それでも、この現代において心脳二元論を取る科学者の声には、色んな意味で興味が湧く。
一方デントンの考えによれば、感覚器で得られた情報は脳の各所でモジュール的に処理され、それらモジュールの働きを統合して「解釈」するのが意識の役目である、ということになる。つまり「意識」してから「行動」するのではなく、「行動」が行われてからそれを「意識」が解釈するということだ。そういう意味で我々は皆、自分という物語の話者だと言えるだろう。
神経細胞の集合体が文字通り一体となって協力し、意識につかのまの心像を統合するのである。その中には脳の諸過程がみずからを吟味し、自己の行為を賞賛したり嘲笑するというような、心的過程の頂点も含まれている。
(p217)
(はてな年間100冊読書クラブ:2/100)
- 作者: デリクデントン,Derek Denton,大野忠雄,小沢千重子
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 1998/05
- メディア: 単行本
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