『アメリカン・コミックス大全』小野耕世

 「大全」と名は付いているけれど、総花的なガイドブックというよりはエッセイ集という方が良い性格の本。もっとも扱ってる内容が、時間的には草創期から9.11後の状況まで、内容的にはスーパーヒーローものから新聞連載漫画までと幅広く、通して読むことでジャンル全体の俯瞰図を目にすることが出来る。
 この人のエッセイは、文章の節々からコミックスに対する愛情がにじみ出てくるようで、未見の作品への興味を掻き立ててくれる。思えば自分が初めてバットマンに興味を持ったのも、同氏によるSFマガジンでの連載コラムだったのだ。
 ただ、執筆年代の離れた文章が寄せ集められているので、読んでいて結構混乱した。一つながりの論文として全面的に書き直すか、書かれた当時のまま収録して、各エッセイごとに文末に注釈でも入れた方が判りやすかったと思うのだけど……。もっともこの構成が、インタビューの頻繁な挿入と相まって、小野耕世の目を通したルポとしての、ある種の臨場感、「生っぽさ」を出してる様にも思う。特に911後のヒーロー・コミックスの行き詰まりを説くあたりは、必読。
 ところで『ボーン』邦訳版の続き、本書の書きっぷりだと、どうも出そうに無い感じですね……。原書買っちゃおうかなあ。
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アメリカン・コミックス大全

アメリカン・コミックス大全

 ちなみに本書の副読本としては、季刊「本とコンピュータ」別冊「アメリカンコミックス最前線」がお勧め。
アメリカンコミックス最前線 (別冊・本とコンピュータ (6))

アメリカンコミックス最前線 (別冊・本とコンピュータ (6))