『まだ見ぬ冬の悲しみも』山本弘

 『神は沈黙せず』の山本弘による短編集。
 集中のベストは、やはり表題作。いわゆるタイム・パラドックスものの一変種だけれども、このひねり方、発想は凄いと思う。ちょっとイーガンの「位相夢」を連想してしまった。
 「メデューサの呪文」に出てくる言語文明というアイデアなんかも、発想自体はそう突飛なものでも無いと思うけれど、他の作品でも見られる作者の世界観、価値観を色濃く反映しつつ、きっちり壮大なビジョンとしてまとめられていて好きだ。あと「バイオシップ・ハンター」に出てくる生体宇宙船の繁殖場の場面もいい。
 ただ個人的に、登場人物の描写に作者の価値観が生に反映されているようなところは、ちょっと苦手だったりする。例えば主人公と相反する考えを持つ登場人物が、いかにも、という感じで愚かそうに描写されていたりすると、どうも鼻白んでしまう。後、超光速航法が実現されているような未来を舞台にしているのに、「コンビニ」だの「有線放送」が出てきたり、「RPGだな。戦ってレベルを上げていくわけか」なんて台詞が出てくるのは、いかがなものかと。
 総じてどの短編もすらすらと非常に読み易く、アイデアも工夫が凝らされているので、楽しく読み終えることが出来た。SF初心者に是非読んで欲しい一冊。

まだ見ぬ冬の悲しみも (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

まだ見ぬ冬の悲しみも (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

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