『ハンニバル・ライジング』トマス・ハリス

 『レッド・ドラゴン』『羊たちの沈黙』『ハンニバル』に続くレクター博士もの第4作。今作はレクター博士の幼少時代から青年にかけてを描いている。いわばハンニバル・エピソード1という趣。
 前作にはかなり失望させられたものだけど、今作はさすがに全然期待してなかっただけに、まあ、それなりに楽しめました。神無き精神世界と文化的な洗練性を併せ持つレクターの心象風景に、日本文化を持って来る発想や、ラストで明かされる真相(でも大抵の人は途中で察しがつくと思う)など、絵解きとしての判りやすさは、ハリウッド映画的と言えるかも。描写も至極あっさりとしているので、さくさくと読み進められる。
 レクターも初期二作に見られたような、それこそ目が合っただけで食べられるんじゃないかというような非人間的な恐怖感はすっかり消えうせていて、妹の復讐のため、愛する女性のため、せっせと悪い奴らを倒していく様は、もはや完全にダーク・ヒーロー。ここには『レッド・ドラゴン』でのグレアムの言葉に見られたような、世界の理不尽さへの畏怖の感情は、もう見られない。まあ、正統派でもダークでも、畏怖するんじゃなくて畏怖されることこそがヒーローの役割ですからね。
 それにしても、この薄さ、活字の大きさで上下二分冊というのは、足元を見られたようで、あまり良い気持ちがしないなあ。

ハンニバル・ライジング 上巻 (新潮文庫)

ハンニバル・ライジング 上巻 (新潮文庫)

ハンニバル・ライジング 下巻 (新潮文庫)

ハンニバル・ライジング 下巻 (新潮文庫)

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