『白き狼の息子』マイケル・ムアコック

 新版エルリック・サーガも、これでとうとう最終巻。タキシードを着て気球に乗って登場したり、遊園地でアイスクリームを食べたりと、妙に現代イギリスに溶け込んでいるエルリックが微笑ましい。主役級の少女ウーナッハや人語をしゃべる狐ルニャール公など、今回の物語はどこか可愛らしい雰囲気が面白い。
 もっとも新三部作全体を通してみると、最後までどうにも散漫な印象がぬぐいきれない。『夢盗人の娘』で新たな物語が始まり、ナチス政権下のドイツにエルリックが現れるあたりでは、かなりワクワクしてたんだけどなあ……。多元宇宙の概念と夢を絡めて、自作品を、現代世界をもう一度リンクしなおすという、意欲的とも思えた試み。でも結局は同人誌的な蛸壺感というか、セルフパロディを延々と読まさせられるような居心地の悪さを感じてしまったのは辛い。メタフィクション的な面白さのほうに持っていけなかったのかなあ、とは思うのだけど……。
 とは言え、グランブレタン暗黒帝国のおなじみの面々が登場したりすると、ついニヤニヤと頬が緩んでしまうのも事実。まあ、やっぱりこのシリーズのファンなんですな。個性あふれる暗黒帝国の悪役たちに押されたのか、毎度おなじみゲイナー&クロスターハイムも、今回はちょっぴり影が薄い。ああ、また「ルーンの杖秘録」を読みたくなったな。

白き狼の息子―永遠の戦士エルリック〈7〉 (ハヤカワ文庫SF)

白き狼の息子―永遠の戦士エルリック〈7〉 (ハヤカワ文庫SF)

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