『最後のユニコーン』ピーター・S・ビーグル

zeroset2007-03-16

 タンポポの毛のようなたてがみと貝殻色に光る角を持つ、この世で最も美しい生き物ユニコーン。なぜ彼らは姿を消してしまったのか? ユニコーン最後の生き残りは、仲間を求めて旅に出る……。叙情的で優しさにあふれた語り口で読者を魅了し続けるビーグルの最高傑作。

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 シニカルでモダン、しかし、あまりにも人間的な……。しみじみと美しい、大人のためのファンタジー。しかし、どこか「若さ」が無ければ書けない瑞々しさをも感じるところが面白い。
 それにしても、良く考えたらこの物語で若いと言える登場人物は、リーア王子だけなのだった。その王子も、最後には苦い経験と共に、無垢さを失ってしまう。
 印象的な登場人物は多いが、特に心に残ったのは主人公格の二人だった。あまりに無能なために永遠の命を与えられたヘボ魔法使い、シュメンドリック。まっとうな大人なら持っているような自信とは無縁なまま、自分の可能性を試す事も出来ずに、ただただ無為に年を重ねてきた男。義賊気取りの山賊たちとのすさんだ生活に、身も心も磨り減り年老いた女、モリー。どちらも、大人になりきれないまま体だけ年を取ってしまったキャラクターだ。なかでもユニコーンとはじめて会った時のモリーの叫びには、胸の詰まるような共感を覚える。

二十年前には、十年前には、あんたはどこにいたんだい? 何てこった、何てこった、今になってあたしのところに来るなんて、あたしがこんなになったときに来るなんて?
(p103)

 その他の登場人物も、戯画的でありながら、単純に善悪に分けられない不可思議な陰影を持つ。面白いのは皆、自分が物語の登場人物であることを自覚していること。それも「あまり出来の良くない物語」の。読者である我々と同じように、彼らも皆、本物の物語を渇望し、恋焦がれている。だからこそ、そんな彼らが最後に手に入れるささやかなハッピーエンドに、諦念に、胸を打たれるのだろう。

最後のユニコーン (ハヤカワ文庫 FT 11)

最後のユニコーン (ハヤカワ文庫 FT 11)

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