『カイアシ類・水平進化という戦略―海洋生態系を支える微小生物の世界』大塚攻

 微小甲殻類であるカイアシについて、その系統や進化、生活史から生態系における役割まで、幅広く解説した本。もっともそんな生物、名前も聞いたことの無い人が多いかもしれない。淡水にすむものは、ケンミジンコという名前の方が通りが良いが、それでも知名度がどれだけあるかと言えば、実に心許ない。しかしこのカイアシ類は動物プランクトンの大勢を占めており、海の生態系の基盤となっていると言っても過言では無いのである。
 本書で一番興味を引いたのは、カイアシ類の系統的な歴史を推察する部分。太古の世界における大陸移動の影響を現在の分布から類推して、そこから起源を求める、というやり方が面白い。ただ、系統(属や目)に寿命があるかのような記述には、おや?と思った。うーん、不勉強なので心もとないけれど、こういう考えは、もう古いんじゃなかったっけ。
 その他、生命の歴史上、何度も繰り返された大量絶滅と生態系の話も興味深い。海洋のバイオマスの大勢を占める生物が、いかに環境の変化に敏感か、それを知ってしまうと、もはや聞き飽きた感すらある「温暖化」という言葉も、違った響きを持って聞こえてくる。
 ただ、やっぱりカイアシという生物自体の地味さが、どうしてもネックになっていると言うか……正直、最後まで読むとちょっとダレるのが辛い。著者のカイアシに掛ける情熱は良く分かるものの、専門外の人間には、ちょっとばかり訴求力に欠けるかも。そう言えば、書名になっているのにも関わらず、「水平進化」についても結局印象が薄い。総花的にトピックを並べるよりは、進化の話か寄生の話に、絞った方が良かったんじゃ無いかと思う。

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