『ヒトデ学―棘皮動物のミラクルワールド』本川達雄・編

 ヒトデ、ウニ、ナマコ、ウミユリからなる「棘皮動物門」は、日常ではめったに注目されることの無い生物群だ。多少なりとも話題に上るとしたら、せいぜい食べ物としてのウニやナマコ、サンゴを食い荒らすオニヒトデくらいだろうか。本書はそんな日陰者、棘皮動物の魅力を、余すことなく語った好著である。ちなみに編者はベストセラー『ゾウの時間、ネズミの時間』を著した本川達雄
 棘皮動物特有の骨格「骨片」に覆われた体は、外骨格と内骨格の長所を併せ持ったシステムである。ゼリーのような柔軟性と貝殻のような頑丈さを併せ持つ肉体を可能とした、キャッチ結合組織。吸盤つきの触手のような歩行器官、管足。その管足の動力であり、呼吸・循環器でもある水管系。……どれを取っても他の生物には見られないもので、こんなユニークな構造を、それもこれだけ色々と取り揃えた生物というのも、他にいないんじゃないだろうか。棘皮動物のユニークさからすると、一時期有名になったバージェス動物群の奇天烈さなど霞んで見えるほどだ(その系統的な特異性はともかくとして)。
 個人的に最も感銘を受けたのは、穴を掘るために最適化したウニ「ブンブク」の、見事にシステマティックな身体構造だった。まさに進化の妙!
 ちなみにこれだけユニークな特徴を持つ棘皮動物はまた、我々人間をも含む脊索動物門と非常に近縁な生物である(系統について詳しくない方に補足すると、昆虫や貝、イカ、タコ、ミミズとかより、ウニの方がずっと人間に近い、ということ)。内骨格を持つ、外見だけ見ると左右対称なのに内臓(心臓、胃、肝臓など)は左右非対称、先に肛門が出来て後から口が出来る、背中に神経系があって腹側に消化管がある、という我々人間(を含む脊椎動物)の構造は、動物界全体から見たらひどくユニークなものである。これらの進化の謎を解き明かすキーポイントとして、一見人間とは似ても似つかないかのような棘皮動物が存在する、というところが、実に興味深い。
 その他水産的な観点からの文章など実にバラエティ豊かな内容の本で、最後には(本川センセイお得意の)自作歌謡「棘皮動物数え歌」まで収録されているのが笑える。この身近な奇天烈生物の魅力をもっと知りたいという方は、是非読んでみて欲しい。

ヒトデ学―棘皮動物のミラクルワールド

ヒトデ学―棘皮動物のミラクルワールド

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