『妖の忍法帖』山田風太郎

 東京出張の際に、たまたま入った古本屋にて入手。光文社カッパ・ノベルズ版で、挿絵は小島剛夕。後に『忍法双頭の鷲』と改題されて角川文庫に再録されており、いかにも適当につけたような原題よりはずっと中味に則した題名ではある。もっともこれまた現在では絶版。忍法帖を多く再録している角川e文庫にも収録されないままだ。ここまで冷遇されるのは、単に凡作だからということもあるのだろうけど、また別の理由もあるのかもしれない。と言うのも作中、優生学的な見地を持つ人物が登場し、同時に先天的障害者に関しての結構強烈な描写があるのだ。
 本作は風太忍法帖最末期の長篇(連作短編集)で、さすがにこのあたりになってくるとネタ切れなのか、それとも山風先生も飽きてきたのか、あっさりと流して書いたような印象の作品になっている。忍者同士のバトルはどれも2、3行でかたがついてしまうし、主人公側の技も組み体操みたいな感じで、なんだかパッとしない。
 ただ、短編などで使われた、風太郎お得意のモチーフがあちこちで再利用されているのは、ちょっと面白い。また、悲哀感とバカバカしさが交じり合った、独特のストーリーテリングも健在。お話としても『武蔵野水滸伝』の様に八方破れでは無く、きちんとまとまってはいるのだけれど……それだけにアクとコクの不足が物足りないんだよなあ。もちろん一般的に見れば、十分水準以上の娯楽作なんだけど。
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