『武蔵野水滸伝(上・下)』山田風太郎

 千葉周作国定忠治清水次郎長など江戸後・末期の有名剣士、侠客が勢ぞろい。妖術の力を借りて、本来あり得ないはずの「夢の対決」を実現させる、というお話。どことなく『魔界転生』リメイクという趣もある一作だけど、こちらは肩の力を抜いた娯楽作、講談調の一品となっています。と言うか肩の力を抜きすぎて、どうも妙なことになってるような……。
 個性的な剣士、侠客たちが続々登場する前半部は、いわゆる「剣豪もし戦わば」を期待させられて、かなりワクワクします。しかし剣士たちの精神を侠客たちの肉体に乗り移らせるあたりから、お話は徐々に迷走状態に。それでもやっとこさこれで剣豪同士の夢の対決が始まるのかな、なんて期待しつつ読み進めると、あれよあれよと全員魔人と化してしまい、決闘どころか、みんなで仲良く悪行三昧を始める無茶苦茶さ。
 一方主人公はというと、前半こそそれなりに威勢の良いことを言ったりするものの、話が進むにつれ、あまりの魔界っぷりにひたすら狼狽、右往左往するばかりという情なさ。ここまでくると「実は作者にもいま見当がつきかねるありさま」なんて地の文でぼやいて見せたりして、一体山風先生、どう風呂敷を畳むのかと思ったら……う〜ん、畳む代わりにひっくり返しちゃいましたねえ。
 まあ、なにしろ悪役の名が「南無扇子丸」(ナンセンス丸!)だからして、この事態も仕方無いのかも。駄作といえば駄作だけれども、あちこちに山田風太郎らしい茶目っ気が見られて、嫌いになれない作品ではあります。
はてな年間100冊読書クラブ 11、12冊目)