『どーなつ』北野勇作

 父の迎えを待ちながらピンボール・マシンで遊んだデパート屋上の夕暮れ、火星に雨を降らせようとした田宮さんに恋していたころ、そして、どことも知れぬ異星で電気熊に乗りこんで戦った日々…そんな“おれ”の想い出には何かが足りなくて、何かが多すぎる。いったい“おれ”はどこから来て、そもそも今どこにいるのだろう?日本SF大賞受賞の著者が描く、どこかなつかしくて、せつなく、そしてむなしい曖昧な記憶の物語。
Amazon商品説明より)

 SFマガジンで読んだ「カメリ」シリーズが面白かったので読んでみた。
 初め、普通の短編集かと思っていたら、読んでいるうちに連作短編集と気が付いた。いったいこれは改造アメフラシに移植された意識が見る夢か、熊型作業機械に残る残留思念か、それとも異星人の侵略なのか。他人の記憶が混入し、自分の記憶なのか、他人の記憶なのかすら分からない、そんな状況が続く。しかし、不思議と恐怖心や焦燥感は感じない。
 認知や意識についての知識をバックボーンとしながらも、作中ではあくまで「匂わす」程度に留めているため、曖昧模糊とした印象が強い。忘れてしまったことすら思い出せない夢、ぽっかり空いた記憶を探ってるような、空虚さ。霞を通してものを見ているような、曖昧さ。何かを失ってしまった、ぼんやりとした喪失感が全編を包んでいて、読後感は不思議と心地良い。
 ただ、自分の好みからすると、ちょっと散漫としすぎてる様に感じられたのが、残念。この人の作品、どちらかというと自分には短編の方が向いてるのかも知れない。
はてな年間100冊読書クラブ 8/100)

どーなつ (ハヤカワ文庫 JA Jコレクション)

どーなつ (ハヤカワ文庫 JA Jコレクション)

 ちなみに上の画像は文庫版ですが、自分が読んだのは新書版のほうです。