『小鼠 ニューヨークを侵略』レナード・ウイバリー

zeroset2006-07-06

 ヨーロッパの小国、グランド・フェンウィック公国。ワインしか産業の無いこの国は、人口増による財政難を解決するため、とんでもない奇策に打って出る。アメリカに宣戦布告をし、速やかに敗戦、しかる後「復興費用」をせしめようというのだ。ところがそのころアメリカでは、一発で大陸を吹き飛ばすことも出来る超兵器「Q爆弾」が開発されていて……。
 擬似イベントものの古典的作品。永らく入手困難だったのが、去年復刊されたとのこと。
 もっとブラックな話だと思っていたら、えらくのどかな話だったので、ちょっと拍子抜けしたかな。「アフリカの爆弾」(筒井康隆)みたいなのを期待して読んだら、ぜんぜん違った。
 公国の聡明な姫君、グロリアナ大公女がなかなか魅力的だったのでそれなりに楽しく読めたものの、正直、既に古ぼけてしまったという印象が強い。もっとも違和感を感じるのは、冷戦時の2大陣営に対比するかたちで描かれる「小国」という存在の、妙に理想化された書きぶりだろうか。強力な兵器を手に入れた小国連合が共同管理により世界平和を実現する、などというプロットは、正直、911後の今となっては悪い意味で夢物語にしか思えない。「沈黙の艦隊」とかと同じで、冷戦と言う特殊な状況下でこういう理想主義もあったんですよ、という記録としては面白いかも知れないが。中世の軍隊が世界最先端の国に攻めてくるという、アナクロニズムをネタとしたコメディが、いまやアナクロニズムそのものになってしまったと言うのは皮肉と言えば皮肉だが、時代の流れというものがある以上、こればかりは仕方のないことだろうなあ。
 どちらかと言うと、この小説が書かれた1950年代、冷戦まっただなかの社会状況をストレートに反映した描写の方が興味深く読める。原爆投下を想定した防空演習が、パニックになってしまうところとか。グロリアナやQ爆弾を開発したコーキンツ博士など登場人物の言動も、重大事なのに皆どこか抜けていて、おっとりとした楽しさがある。ここらへん、もっとビビッドな訳で読んだら、更に楽しめたかも知れない。

小鼠ニューヨークを侵略 (創元推理文庫 F ウ 2-1)

小鼠ニューヨークを侵略 (創元推理文庫 F ウ 2-1)