『この世の彼方の海』マイクル・ムアコック

 新版エルリック・サーガ2巻目。旧「この世の彼方の海」と「白き狼の宿命」を一冊にまとめた構成になっている(旧版にあった「オーベック伯の夢」は割愛)。巻末には本国におけるエルリック・サーガ発表の流れが簡単に解説されていて、旧版の読者にも、単行本の構成が分かりやすくなっているのがありがたい。……のだけれども、本来、こういうのは最初の巻にあるべきなんじゃないかなあ。訳者の思い入れを語るのは、最終巻でも十分。あと、この巻にはコルムなどが登場する話もあるので、他のシリーズの簡単な解説があってもいいと思う。せっかくの新規読者開拓のチャンスなんだし。
 今巻はエターナル・チャンピオン勢ぞろいな「未来への旅」から始まり、エルリックの最初の裏切りが語られる「過去への旅」、名作「夢見る都」などバラエティに富んだ作品が集まっている。久しぶりに読んでみると、終盤の展開への伏線がいくつも見られて楽しい。特に「過去への旅」で描かれるメルニボネ人堕落の真相は、ムアコックの人間観が色濃く出ているようで興味深い。
 それにしても「夢見る都」の身も蓋も無さには笑えるな。宿命に翻弄されているというよりはむしろ自ら不運を呼び込んでいるとしか思えないエルリック。その嘆き節もいよいよ本調ですな。