『デス博士の島その他の物語』ジーン・ウルフ

 技巧派SF作家、ジーン・ウルフの中短編集。国書刊行会未来の文学」シリーズ第二期の第一回配本でもある。「デス博士の島その他の物語」「アイランド博士の死」「死の島の博士」の島三部作(+ボーナス・トラック「島の博士の死」)に、「アメリカの七夜」「眼閃の奇跡」の二中篇を加えた構成になっている。
 う〜ん、難物だった。語り口自体は決して難解じゃないんだけれど、読んだ後も、何と言うか、自分は「上澄み」だけしか掬ってないんじゃないか、膨大な量の情報を読み取れてないんじゃないか、というおぼつかない気持ちにさせられる。でも、面白いんだよなあ。語り手は誰なのか?この記述は信用できるのか?頭をひねりながら読み進めつつも、ラスト一行で感動してる自分が。タチが悪いよ。他に積読本がいっぱいあるのに、これじゃ再読せざるをえないじゃないの!
 個人的には表題作「デス博士の島その他の物語」が感慨深い。自分もやっぱり子供のころ、「モロー博士の島」が好きだったし。これまたシンプルな話ながらも、語り手は誰なのか?などと考えると思った以上の深みが待ち構えてそうだ。分割脳施術を受けた少年が主人公の「アイランド博士の死」、視覚障害者の少年が主人公の「眼閃の奇跡」へと繋がっていく構成もいいね。イラン人青年がカタストロフ後のアメリカを観光する「アメリカの七夜」にもくらくらさせられる。記述のどこまでが真実なのか……巧妙なトリックを仕掛けられた(らしき)テキストを読まされる読者としての不安が、デモーニッシュに変容したアメリカを歩く主人公自身の不安にオーバーラップする。この話に限らず、物語を読む楽しさと不安に酔いながらも、やがて「物語を読む自分」へと視線を向けさせられる作品集。

「だけど、また本を最初から読みはじめれば、みんな帰ってくるんだよ(中略)
「ほんとうだとも」彼は立ち上がり、きみの髪をもみくちゃにする。「きみだってそうなんだ、タッキー。まだ小さいから理解できないかもしれないが、きみだって同じなんだよ」
(p46)

デス博士の島その他の物語 (未来の文学)

デス博士の島その他の物語 (未来の文学)