『大仏破壊』 高木徹

 タリバン政権によるバーミヤン大仏破壊は、その半年後に起こる9.11アメリ同時多発テロの予兆とでも言うべき出来事だった。タリバンが破滅に陥るきっかけとなった大仏爆破事件を描くドキュメント。
 大仏爆破という衝撃的な出来事は、日本に住んでいる我々の眼には「唐突」としか言い様の無い出来事だった。しかしカタストロフィーに至るまでにはタリバン内部の葛藤と、NGOや国連による必死の働きかけが続いていたのである。爆破が「唐突」に見えたのは、ひとえに先進国の無関心ゆえの錯覚に過ぎない。単に「タリバンイスラム過激派だから」で済まされることでは無いのだ。
 本書はもとタリバン幹部やNGO代表、国連職員と言った個人個人への取材から構成されていて、2000年当時のアフガニスタンの様子を「イスラム過激派の台頭」といった歴史年表的な視点からでは無く、「名前を持つ個人の目から見た歴史」として生き生きと描き出している。特に興味深かったのは、タリバン開明派がアメリカを視察していたという事実だった。彼らは初めこそアメリカの国力に圧倒されるばかりであったが、部族社会を離れ、故郷を外から眺めることで、自らの文化を再発見するに至る(ここらあたりは日本人として、明治維新期を思い起こさせられる)。そして帰国した彼らが海外へのアピールのため、いや、何よりもアフガニスタンの文化を守るため、紆余曲折を経て国立博物館の開館にこぎつけるエピソードは―それが結局は実の結ばぬ努力であった故に―とりわけ強い印象が残ったのだった。結局はビンラディンによってタリバンは食い物にされてしまった訳だが、国際社会の無関心が破滅を呼んだ、とする元タリバン幹部の証言は重い。

大仏破壊 バーミアン遺跡はなぜ破壊されたか

大仏破壊 バーミアン遺跡はなぜ破壊されたか