『がわかる本 ブレードランナーの未来世紀』町山智浩

 町山智浩による「映画秘宝」連載を大幅加筆の上、単行本化したもの。前作は70年代篇だったが、今回は80年代の、それもカルト的な人気を博したタイプの映画ばかり扱っている。「ブレードランナー」にデビッド・クローネンバーグビデオドローム」、デビッド・リンチイレイザーヘッド」「ブルー・ベルベット」、テリー・ギリアム未来世紀ブラジル」と個人的に思い入れの深い映画や監督が多く、とても感慨深く読めた。なにしろ一番多感な時期を直撃した映画たちだから。
 「映画の見方がわかる」という副題になってはいるものの、個々の映画に対してそれほど斬新な切り口・論点があるというわけでは無い。これらの映画について「自分はファンだ」と自覚してるような人なら「ふんふん、確かにそうだよね〜」などと思うことはあっても、例えば180°見方が変わったり、なんてことは無いだろう。どちらかと言えば映画を覆うディティールのひだ一つ一つを、監督の発言や生い立ちなどを照ら合わせながら、地道に腑分けしていくような論調の本だ。とは言っても、もちろん地味だったり堅いという訳では無いのだけれど(そもそも掲載誌が「映画秘宝」だし)。それなりに飛躍や脱線も含んでて、軽い気持ちで読める。トリビア的な知識も多い。何回も観た映画でも、もう一度観たくなる本。この本を読んだ後なら、大好きな映画が、より陰影に富んだ姿を現してくれると思う。