『ソーネチカ』リュドミラ・ウリツカヤ

 戦前のロシアの片田舎。近眼で器量も良くない少女ソーネチカの唯一の楽しみは読書である。そんな彼女を見初めたのは、パリ帰りで反体制芸術家のロベルトだった。流刑同然の生活の中、家族を支え、懸命に生きるソーネチカの物語。
 う〜ん、メロドラマです。貧困や夫の裏切りなど様々な苦境の中にあっても、ソーネチカは『少女パレアナ』のごときポジティブ・シンキングで何時も幸せ。可哀想に思って引き取った孤児の少女が夫を奪っても「あたし、なんてしあわせなのかしら・・・・・・」。で、夫が死ぬとその少女を引き取って娘同然に接するんですな。
 『パレアナ』がそうであったように、ソーネチカの態度の根源にはキリスト教思想がある。ただ、作者はソーネチカに寄り添い、その心理を丹念に表現はしていても、決して聖人のようにも愚か者のようにも書かず、あくまで「こういう人もいるんだよ」というような客観的な態度を崩してはいない。最後、家族がバラバラになり、一人孤独に暮らす中にあっても「あたし、なんて幸せなのかしら……」とのたまうソーネチカには、こういうタイプの人間には適わんなあ、と思わされた(しかし、ある意味うらやましい)。土俗的な人間の強さ、という点では、手〓治虫『奇子』のお婆ちゃんを思い出しちゃったよ。もっとも、ソーネチカの強さの裏には、本の虫ならではの「現実もフィクションも等価に感じる」心理状態もあるように感じられるが。宗教にしろ、良妻賢母神話にしろ、ロシア文学にしろ、「フィクション」は人を強くするんですな。

ソーネチカ (新潮クレスト・ブックス)

ソーネチカ (新潮クレスト・ブックス)