『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』桜庭一樹

 いわゆるライトノベルと呼ばれるジャンルの本を読むのも、十数年ぶりくらいな気がするが最悪の読後感を味わわせてくれる小説を教えてください。「期待し… - 人力検索はてなを見て読みたくなった本。なにしろ、「最悪の読後感を味わわせてくれる小説」として、あの『隣の家の少女 (扶桑社ミステリー)』と併記してあるわけですからね。一体どんな小説なんだと。あと境港市が舞台というのも、同じ山陰に住む者として親近感が沸いた(ただ近隣の町を一緒にしていたり、微妙に地理的なディティールは改変してあった)。
 主人公は田舎町に暮らす十三歳の少女。父は亡くなり、兄は引きこもり。この世界で生き抜く「実弾」を手に入れるため、卒業後は就職するつもりだ。そんな主人公のクラスに、自分を人魚だと称する、エキセントリックな美少女が転校してきた……。
 児童虐待をテーマにした作品で、可愛らしい表紙絵とは裏腹に、かなりシビアなストーリーが展開する。最悪の結末―主人公が親友のバラバラ死体を発見する―は最初のページで示される。あとはひたすらバッドエンドへ向かって突き進む……というよりは押し流されていくお話。主人公達の子供ゆえの無力感が悲しいが、個人的には「最悪の読後感」というほどのものは感じなかった。
 正直、ちょっと波長が合わなかったのかもしれない。ストーリー自体は魅力的で、だからこそ、妙に現実離れしたシーンが気になって気になって。例えば中学生の少女が、たった今殺人を冒した男に向かって心理クイズを出してみたり、とか。キー・パーソンである転校生のエキセントリックさも、どこかマンガっぽい。その他細々とした描写の軽さ、悪い意味でのラノベっぽさが、この小説が本来持つはずだった痛々しさ、現実へ切り込む「力」を弱めているように思う。まさにその力(小説内での「実弾」という呼称が素晴らしい)こそが、この作品の主題なのだろうに。
 ラスト、主人公の兄の変貌(それは半神性を失うことでもあったが)と、主人公の決意の重さが鮮やかに決っている。ここの辺りが、この物語を単純な「かわいそうなお話」から引き上げていて、心に残った(逆にそれが、救いの無い様に見える話から読後感の悪さを消している)。
 余談だが読後、上記の「はてな」質問にはたぶんジョン・ソールあたりが適例だったんじゃないだろうか、『惨殺の女神』か『暗い森の少女』でも薦めれば良かったかな、と思った。それで質問者のブログを見たら、やはり『暗い森の少女』には相当心を動かされた様子。自分自身は単に暗い小説だな、としか感じなかった本だが……。当たり前のことだけど、「後味悪い」と感じるモノには相当個人差があるんだろうな、と実感させられました。ちょっと「我が愛しき娘たちよ」(コニー・ウィリス)とか「ラセンウジバエ解決法」(ティプトリーjr)を読んだ時の反応も見てみたくなったり。

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)