『コンクリート・アイランド』J・G・バラード

コンクリート・アイランド
 ロンドン郊外の高速道路。主人公はスリップ事故をおこし、車ごと高架に囲まれた空き地に落ちてしまう。そこは打ち捨てられた“コンクリートの島”。男は懸命に脱出を試みるが……。
 『クラッシュ』『ハイ・ライズ』と共に「テクノロジー3部作」と称される作品。バラードの長編ってちょっと中だるみする印象があったのだが、これは実質中編なためか、短編同様ピリッと締まった感じで最後まで緊張感を持続して読めた。巻末には山形浩生による熱のこもった長文バラード論も付いててお得。
 あらすじだけは昔から知っていて、高速道路に囲まれた場所から出られなくなる、というアウトラインからはもっとシュールな状況を連想していたのだが、実際には単純に物理的に閉じ込められる話だった。もっとも後半になると、また状況が変ってくるのだが。話の展開から、自分は安部公房の『砂の女』を連想した。映画化作品は確かカンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞してたはずだし、バラードがインスパイアされた可能性も考えられないだろうか。もちろん『ロビンソン・クルーソー』を下敷きにしていることも確かだろうし、いずれにせよ、これらの作品との共通性から言ってもこの作品のテーマが単に「テクノロジー社会に警鐘を鳴らす」なんてものじゃ無いことは確かだろう。
 テクノロジーに囲まれているにも関わらず、いや、それ故にこそ文明のエアポケットとなった場所で、ミニマムな(登場人物は主人公、白痴の軽業師、娼婦の三人だけ)社会と本能のドラマが繰り広げられる。支配、取引、セックス、宗教、文明。非常に卑近で現代的で、それでいて神話的な物語。硬質な文体が、この場合、とても魅力的。バラードはやっぱり良いなぁ。