『人間はどこまで動物か』日高敏隆

人間はどこまで動物か
 コンラート・ローレンツの『ソロモンの指輪』とリチャード・ドーキンスの『生物=生存機械論』(現在は増補改訂されて『利己的な遺伝子』と改題されている)は、それぞれ高校・大学の頃読んで、自分の自然観に決定的な影響を与えた本だ。これはその訳者、日高敏隆によるエッセイ集。
 面白かったのは昆虫が羽を動かす仕組みに関する文章。昆虫は胸が蓋付きの箱のような構造になっていて、羽は箱と蓋の境に繋がっている。そして胸の筋肉でその蓋を上げ下げすることで羽を動かしている、ということらしい。また、羽の根元に付いている筋肉は微妙な角度調整を担っており、それでホバリングなどの複雑な制動を行っている。空を飛ぶという類推から、ついつい鳥などと同じ構造と思いがちだが、やはり系統的に大きく異なってるとその仕組みも相当異質になるんだな、と実感させられる一編。あと「大潮の引き潮時にしか露頭しない岩の割れ目の中」というおそろしくニッチな場所に住む昆虫、エポフィリスの話とか。
 著者は前作で日本エッセイスト・クラブ賞も受賞しているそうで、文章も平易で読みやすく、頷かせられる点も多い。ただ、変な話かもしれないけど、あまりに口当たりが良すぎてちょっと物足りない気はする。科学エッセイには、常識を揺さぶるような視点があって欲しいのだけれども。