『ロシア・アニメ−アヴァンギャルドからノルシュテインまで』井上徹
ロシア・アニメ―アヴァンギャルドからノルシュテインまで (ユーラシア・ブックレット)
- 作者: 井上徹
- 出版社/メーカー: 東洋書店
- 発売日: 2005/02
- メディア: 単行本
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ノルシュテインやアレキサンドル・ペトロフなど、独特の作品を生み出したロシア・アニメの、多分日本で唯一の通史。本物の昆虫と見まがうモデル・アニメを作ったスタレーヴィチをパイオニアとして、ロシア・アニメは始まった。スタレーヴィチの亡命によりロシア・アニメの歴史は一旦途切れるが、革命の情熱の残り火の下、ロシア・アヴァンギャルド芸術の流れを汲むツェハノフスキー作品(「郵便」というアニメは、一枚しか写真が載ってないが、まるでコンピュータ・グラフィックのような雰囲気で印象的だ)など前衛的なアニメが作られていく。しかし皮肉な事に、ディズニー・アニメ(ミッキー・マウスとシリー・シンフォニー)の登場によって、ロシアのアニメは方向転換を余儀なくされるのだった。
そこでは、「アニメはウォルト・ディズニーののように、楽しく心奪われるほど陽気でなければならない」という意見が大勢を占め、「我々自身のソビエトのミッキー・マウスを創り出そう」というスローガンさえ提案された。(中略)こうした状況のなか、アニメにおいても、大衆受けしてスターリンも大好きで、しかもアニメーター自身も衝撃を受けたディズニー作品が、目指すべき目標とされた。
(p27-28)
戦後になっても『白雪姫』がロシア民話を題材にした『イワンのこうま』『雪の女王』製作のモチベーションとなったり、ディズニーの影響は共産圏でも強かったんだな、と実感させられる。やがて雪解けの時代とともに人形アニメーションが復活。UPAの影響か、グラフィック調のデザインのリミテッド・アニメーションも作られるようになる。
なにぶんにも64頁しかない小冊子なので、作家それぞれの紹介はごく簡潔で、少し物足りない気もしないではない。ただ、共産圏のアニメについて「国の予算を使って、西側では出来ないような個性的なアニメーションを作りつづけた」「体制批判のメッセージを作中に込め、権力の弾圧を受けた」という程度の知識しか持たない自分のようなものにとっては、この国のアニメーションのたどった歴史を知るだけでも興味深い。