『山田風太郎忍法帖短編全集10 忍者六道銭』

忍者六道銭―山田風太郎忍法帖短篇全集〈10〉 (ちくま文庫)
 忍法帖短編全集もあと二巻。最終巻の『剣鬼喇嘛仏』はオリジナル版の構成を再現した徳間文庫版で読んだばかりなので、個人的な感覚としてはあと一巻、という感じ。ついこの間「いよいよ忍法帖の短編全集が来た!」と喜んでた様な気がするのに、時間が経つのは早い。
 本作もかなり再読作品が混じっているが、記憶力が悪いせいか山風小説の特性ゆえか、どの作品も初読時の様に楽しむことが出来た。
 表題作はやっぱり面白い。奈々姫の無邪気さと妖艶さが、いかにもな風太郎お姫様キャラ。手品めいてたり、そのまんま「さばおり」な忍法のとぼけた雰囲気とは対照的な、壮絶なストーリー。一種の心中と言えるラストが悲しい。「忍者死籤」は、ええっそれでいいの?と突っ込みたくなる読者自身がオチで落とされる仕組み。強烈な人間観だよなぁ。「くノ一地獄変」 は例によって女性恐怖な話で、「ガリバー忍法島」「忍法聖千姫」と同趣向の話が続くとマンネリだなぁ……と思わせないのがこの作者の凄いところ。一番清純な少女が、その清純さゆえに一番恐ろしい、という話。「天明の判官」は解説にあるように本格ミステリ忍法帖。良く考えたら忍法帖である必然性は無いのだが、面白いからいいや。庶民の味方、曲淵判官の恐ろしさが際立つ一編。「大いなる伊賀者」も当初は忍法帖っぽくない雰囲気で始まるものの、最後は強烈にグロテスクでナンセンスな忍法で幕を閉める。
 と、いう訳で今回の収録作もハズレ無し! あっ、忍法帖にかこつけてテレビタレントを紹介する、という趣向のエッセイ「TV忍法帖」はさすがにちょっと……まぁ、これはボーナス・トラックだし。