『心をもつ機械―ミンスキーと人工知能』J・バーンスタイン

 人工知能研究のパイオニアマーヴィン・ミンスキーへのインタビューを中心としたドキュメント。古書店で購入。
 原著が出版されたのが1981年、訳書が出たのも1987年と、もう20年も前の本なので、さすがに内容の古さは否めない。コンピューター関係の進歩についてはもうどうしようも無いことだが、肝心の人工知能に関する記述が、結局現在でもはかばかしい成果を挙げていない事を知ってるだけに、余計古さが際立ってる様に感じた。最近、意識や脳科学に関する本を読んでいてこれもその一環として手に取ったのだが、この点に関しては正直期待外れだったとしか言い様が無い。もともとは「ニューヨーカー」に連載された読み物であり、科学の最前線からの現場報告といった趣がある。もし訳書が出版された時にリアルタイムで読んでいたら、この熱い想いを共有できたろうに、と思うと少し残念に思う。
 むしろ現在では、ミンスキーの人となりや、その周りに集まったハッカーたちの生態を知る資料として興味深い。「天才は量産する」の言葉通り、様々な分野に手を出しては、革新的な成果を残していくミンスキーの姿が驚異的だ。一番面白かったのは、生理学研究室でザリガニの肢の神経をいじり、自由に鉛筆を掴んだり、振り回したりさせていた、というくだり。また、ハッカーたちの―もちろん、ここでの「ハッカー」とは言葉本来の意味での「ハッカー」である―創意工夫ぶり、生き生きとした活躍も楽しい。この点で残念なのは生硬な訳文で、この書本来の魅力をかなり減じてるように感じる(この本の訳文、硬いだけじゃなく、意味がとりにくい所も数多くあって、途方にくれることも多かった)。もし現在この本を復刊するならば、山形浩生あたりにヴィヴィッドな文章で訳してもらいたいところだ。

心をもつ機械―ミンスキーと人工知能

心をもつ機械―ミンスキーと人工知能