『山田風太郎忍法帖短編全集8 武蔵忍法旅』

山田風太郎忍法帖短篇全集 (8) 武蔵忍法旅 (ちくま文庫)
 短編全集も8巻目。このころになると初期忍法帖の持っていたイカニモなけれん味は影を潜め、良い意味で枯れた感じになってきている様な気がする。「彦左衛門忍法盥」が良い例だろうか。「近頃の若いもんが・・・・・・」てな懐古主義者をばっさり切り捨てた上でなお、戦中派としての当時のワカモノに対する複雑な思いが見て取れる。しかし、このラストシーン!人間の不可解さと変らなさに対する、達観した視線にはくらくらする。
 集中、もっとも強烈なのが「ガリバー忍法島」。題名からしてなんとも言えないものを感じるが、中身はもっと凄い。「ガリバー旅行記」と「忠臣蔵」と「黄金虫」(ポー)のミクスチャー。日本に渡ったガリバーが、忍法や当時の日本の風俗からブロブディンナグ(巨人国)やフウイヌム(馬の国)を発想していく、というアイデアが楽しい。「日本国」はガリバー旅行記に登場する、唯一実在の国でもあるわけだし。
 ところで、自分が昔「ガリバー旅行記」を読んで、もっとも強烈な印象を受けたのが、ブロブディンナグ(巨人国)だった。どんなに愛らしい少女でも、視点を変えて見ただけで、グロテスクな肉塊に変貌する・・・・・・この発想が、純情(笑)だった当時の自分には衝撃的だった。この“視点”は風太郎にも共通するもので、こういうスウィフトとの相性の良さが、(アイデア的にはハチャメチャになりそうなのに、ならない)この短編のまとまりの良さに繋がってるんだろうな。