『アバラット』クライヴ・バーカー

アバラット
 一日24時間の時刻の名を持つ島と、禁断の「25時の島」からなる群島世界アバラットアメリカの田舎町からこの世界に迷い込んだ少女、キャンディの冒険を描くファンタジー
 『血の本』シリーズのバーカーによる、全4部作予定の長編ジュブナイル。前に紹介した『コララインとボタンの魔女』同様、ハリポタ人気に当てこんでの邦訳っぽい。バーカー自身による色鮮やかな挿画、青い波模様のついた半透明カバーなど装丁も美しい。ジュブナイルだけあって、セックス&バイオレンス描写は影をひそめているが、バーカーらしい、グロテスクながらも愛嬌のあるキャラクターや、印象に残る悪役には事欠かない。真夜中の王、クリストファー・キャリオンや、悪のビジネスマン、ロホ・ピクスラーなど、ビジュアル・性格ともども実に魅力的。舞台になるアバラット世界も、良くある中世ヨーロッパ風の世界では無く個性的で、テリ−・ギリアムあたりが映像化したら合いそうだ。
 冒頭の、退屈な田舎町と父親の暴力に辟易したキャンディが、カンザスの草原に“海”を呼び寄せるシーンは、美しく開放的で、かなり印象に残る。我々の世界と地続きの世界設定が、主人公の現実逃避願望とその実現を、胸に迫る情景として描き出しているのだろう。
 ただ、作者が先行して描いた絵を元に作ったお話、ということで、何となく取り留めの無い感じはする。これは本巻が内容的に登場人物紹介程度で終わっているためだと思われ、物語の評価としては、続刊を待ちたい。もっとも、個人的にはまた『血の本』シリーズのような、切れ味鋭い短編を読んでみたいのだが・・・・・・。