『山田風太郎忍法帖短篇全集7 忍法関ヶ原』

忍法関ヶ原―山田風太郎忍法帖短篇全集〈7〉 (ちくま文庫)
 短編全集も12巻中7巻目で、ちょうど半分を折り返したことになる。しかし解説によれば、もう既に忍法帖を書いていた時期としては末期にあたるようで、「忍法小塚ッ原」のラストシーンなんかは「幕末妖人伝」シリーズを思わせるものがある。ちなみに本作は風太郎の短編集としては珍しく、初単行本の構成のままで文庫化されたことがあり(文春文庫版)、自分はそちらの方を読んだことがある。従って今回の収録作はボーナストラックのエッセイを除き、全て再読。
 「忍法天草灘」の舞台はキリスト教大弾圧直前の長崎。切支丹の中心人物達を篭絡、肉欲地獄に落とすべく接近する、男女2人の忍者。この忍者が伊賀鍔隠れ・甲賀卍谷出身で、しかも許婚でありながらライバル同士だという、『甲賀忍法帖』を髣髴とさせる設定が、イロイロ想像を膨らませてくれて嬉しい。セクシャル忍法を駆使して誘惑する忍者。壮絶な決意を持って、信仰と貞操を守り抜こうとする切支丹。そして……実在の書『懺悔録』とリンクする驚愕の結末が、もう、すげぇとしか言い様が無い。物語のアクロバティックな“仕掛け”も相まって、聖と俗、虚と実の混迷とするラストシーンは、山田風太郎の魅力の真髄と言っても良いんじゃないかな。集中のベスト。
 お互いに睡眠を応用した忍法と剣法同士の戦いを描いたのが「忍法甲州路」。絶体絶命の危機→オチに至るあたりが、笑いを誘うほどにあっけなくて、面白い。この辺り、ちょっと『室町御伽草子』を思わせるな。最後、自らのために命を落とした忍者達に想いを馳せつつ、屹然として船を漕ぎ、去っていくヒロインの姿が印象的。集中で言えば「忍法関ヶ原」や「忍法小塚ッ原」の様に、索漠・殺伐とした終わり方も(いかにも山風で)いいけど、こういう爽やかなラストも好きだ。