「荊の城」サラ・ウォーターズ (5月30日の続き)

 昨日、「荊の城」の感想を書いた後、なにか書き忘れてた様な気がしていたが、肝心の「城」について何も書いてなかったのに気が付いた。
 子供の頃から城の出てくる話が好きだった。お城といってもロマンチックな白銀の城とかじゃなくて、とにかく巨大で、昼なお暗く、苔むしてるような、そして迷宮の様なお城。そういう城に閉じこもる事に、何か畏れと共に憧れの様なものも感じていた。だから、ポー『赤死病の仮面』は小学生の自分にとって恐ろしく魅惑的な小説だった。死病の蔓延する外界を捨て、城に閉じこもって毎日遊びくらす人々…短編集の中でもこの話だけ、何べんも繰り返し読んだものだった。
 まぁ、自閉的というか母体回帰願望というか、とにかく健康的な考えじゃ無いことは重々承知の上で、その手のお話にはどうしても魅力を感じてしまう。城でなくても、巨大で迷宮的な建築物なら何でもいい。城の外は死の世界だったり、荒廃してたりすると、なお良し。城の中は食べ物や命の心配は無く、その中で主人公は無為に時を過ごす。そんなお話。マーヴィン・ピークゴーメンガースト」三部作、ムアコック『夢見る都』、筒井康隆『家』、安部公房「箱舟さくら丸」、ロメロ「ゾンビ」、宮崎駿千と千尋の神隠し」など。
 「荊の城」の前半の舞台であるブライア(いばら)城もまた、上記の作品に負けない魅力を持っている。特に「ゴーメンガースト」三部作とは類似点が多いと思う。朽ちかけた巨大な城。城を取り仕切る奸臣たち。繰り返す儀式めいた毎日。主人公は城から逃げ出すことを切望しており、実際それに成功するが、しかし…。
 と言う訳で、この手の小説が好きな人(いったい何人くらいいるのか知らないが)にもこの小説、お勧めですよ。