『セメント・ガーデン』イアン・マキューアン

 ぼくと姉は、母親の死体をセメントに埋めた。離れ離れにならないために。両親の死をきっかけに、思春期の少年が見出した楽園とその崩壊。死体遺棄、近親相姦をテーマに放つ、現代英国文壇の旗手の長篇第1作。

 『アムステルダム』『愛の続き』『夢みるピーターの七つの冒険』イアン・マキューアンの初期長編。
 両親の死によって実現した子どもだけの王国が、姉のボーイフレンドの登場によって、じわじわと崩壊していく。子供たちの退行とモラルの消滅を、どこか夢の中のような調子で描くところは、まどろみの『蝿の王』と言おうか。午睡の気だるい雰囲気……自堕落に心地良くて、でもどこか鬱屈した衝動も潜んでいて、それが最後にカタストロフ的に解消されるシーンがとても印象的。
 繊細さと明快さをあわせ持つ文体は、いかにもこの作者らしい。ただ個人的にマキューアンは小山太一の訳文で親しんでいたので、訳者が違うこの本はちょっと違和感があった。もっとも、訳されたのはこちらの方がずっと前なので、ちょっと身勝手な感想ではあるのだけれど。

セメント・ガーデン (Hayakawa novels)

セメント・ガーデン (Hayakawa novels)

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