『受胎告知』『最後の晩餐』『磔刑』『十字架降下』

 金銀に輝く表紙とコンパクトな体裁が印象的な、ファイドンのキリスト教美術シリーズ。四冊まとめて読んでみた。
 このシリーズのミソは、同一モチーフの絵画を編年的に並べてあること。宗教画というものは、どうしても様式化されやすい。その性質上、題材の扱い方にある種の「縛り」が入るから仕方のないことではあるんだけれど、特にここにあげられた四種のモチーフなどは、室内とか、十字架の周辺数メートルとか、舞台も非常に限定されたものだったりする。同じ宗教画でも、例えば最後の審判天地創造などに比べると、はるかにミニマルで自由度が小さい。
 それがこうして年代を追って並べてあることで、逆に、時代による変化や作者による個性が浮き彫りとなってくるのが面白い。ローマ時代のシンプルな線画から、豪奢なルネッサンス絵画の時代を経て、モダン・アートに至るまで。多数の人物が奇怪なポーズで乱舞するマニエリスム絵画を見た後で、同じモチーフを、黒白二色の塗りわけだけで表現した抽象画を見ると、そのシンプルな美しさにはっとしてしまう。
 ガブリエルがマリアにキリストの懐妊を告げる「受胎告知」。ここでマリアの体内に宿ろうとする聖霊は、一般的に鳩の姿で表現されることが多い。しかし中には雲の隙間から神様が身を乗り出して光線を出してたり、光に乗ってホムンクルス様の聖霊がマリアの腹めがけて飛んできたりと、思わず笑ってしまうようなのもあったりして面白い。
 また、磔刑図で十字架の下に転がっている骸骨は、アダムの骨なのだそうである。中にはゾンビよろしく棺から腕を突き出し、復活しようとしているものもある。エデンの園での原罪がイエスの死によって贖われるイメージなのだけれど、その直接的な表現は、インパクト十分。
 最後の晩餐図では、ユダが手前にかかれているものが多い。これは、この重要人物を目立たさせるための構図なんだろうけど、中にはユダがこちらをじっと見つめているものもある。作者はどういう意図で、ユダに鑑賞者を見つめさせたんだろうか……などと色々想像をめぐらせてみるのも、また楽しい。
 と、言うわけでなかなか面白かったので、今度はキリスト教美術以外でもこういう構成の本を読んでみたいと思った。例えば仏陀の涅槃図とか禅の公案図とか竜虎図とか、こういう本、無いかなあ。

受胎告知

受胎告知

最後の晩餐

最後の晩餐

十字架降下

十字架降下

磔刑

磔刑

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