『マルドゥック・スクランブル』冲方丁

 第24回日本SF大賞受賞作。なんだか評価に困る本。設定的には近未来SFということになるんだろうが、重力制御や異次元との連絡なんて超テクノロジーと、ガソリン自動車や公衆電話(!)なんてものが平気で同居しているのには頭を抱えてしまう。一応、戦争関連で開発された技術は封印されていて、一般の人間にはコンタクトできない、というエクスキューズもあるにはあるんだけど、そんな説明で納得できる技術格差じゃないだろ、これ。援助交際やらインターネットカフェやら、モロ現代日本的な描写があったかと思うと、サイバーパンク的な描写があったり、マトリックスばりに街中で一般人巻き込んでドンパチしたり。格好良さそうなもの、自分の主張を伝えるのに都合の良いものを、パッチワークのように繋げて作ったかのような世界観は、悪い意味で「アニメ」的。
 ところがところが。巷で話題のギャンブル・シーン。これは本当に面白いんだよなあ。ブラックジャックという、オープンすぎてイカサマしようが無いようなゲームで、確率論を天秤にかけつつの、精神の削りあい。まさにギャンブル小説、定番中の定番な展開だけれども、この緊迫感、やっぱりドキドキしてしまう。戦いが終り、自らの足で立つことを覚え、自らの選択で勝利した主人公が滂沱の涙を流すシーン、ギャンブルという精神戦と、こころの成長がシンクロして描かれるこの場面は、本当に、本当に素晴らしい。
 でも、このシーンが良すぎて、本来クライマックスであるはずの最後の戦闘シーンが蛇足にしか思えないのは、いかがなものかなあ。

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