『神様の食卓』デイヴィッド・グレゴリ―

 「イエス・キリスト」と名乗る人物からディナーの招待状を受けたビジネスマン。好奇心からディナーに赴き、自らをイエスと名乗る男に様々な質問をぶつけるのだったが……。
 小説としてもキリスト教入門としてもかなり面白くなりそうな題材なのに、単なる布教用パンフレット程度の内容なのが残念だった。もっとも、天国へ行くにはどうしたら良いか聞く主人公に対し、「イエス」が「そんな方法は無い。何をしても天国には行くことはできない」と答えるところなどは、日本において特に誤解されがちな、キリスト教の本質をわかり易く示していると思う。
 頭を抱えたのは、ビッグバンを例に出して「聖書の記述が正しい」ことを「証明」する場面。この作者は、例えばイスラム教の教えと合致する科学事実が発見されたりしたら、改宗でもするつもりなのだろうか。仏教だろうがキリスト教だろうが、この手のやり口は感心しない。
 また、他宗教に対するキリスト教の優位性を説く場面などは、いかにもアメリカ人的な無神経さが鼻につく。もっともこれは原著の責任というよりも、そのまんま翻訳出版した日本側の配慮の無さが問題なのかも知れない。クリスマス・カラーの可愛い表紙で、広範な読者にキリスト教に親しんでもらおうという意図は良く分かるが、内容的にはむしろ逆効果になりそうだ。

神様の食卓 (ランダムハウス講談社文庫)

神様の食卓 (ランダムハウス講談社文庫)

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