『われらの有人宇宙船―日本独自の輸送システム「ふじ」』松浦晋也

 NASDAによって提言された、国産有人宇宙船「ふじ」構想を解説する本。
 何故日本が有人宇宙船を開発しなければならないのか。何故使い捨て型の宇宙船で無ければならないのか。本書では「ふじ」計画について当然思い浮かぶこれらの疑問について、明快で分かりやすい説明があって、とても面白く読めた。
 特に「何故スペースシャトルのような再利用型宇宙船ではなく、一見アポロ時代に逆行したかのような使い捨てカプセル型の宇宙船を開発する必要があるのか」という論点への答えが興味深い。ロケットを軌道に乗せるために、どんなにギリギリな条件をクリアしなければならないか。自分のような門外漢が考えるよりもはるかに狭くシビアな「軌道への道」を実感すると、スペースシャトルのような再利用型往還機の大変さ―ペイロードと燃料のほかに、翼など余計な装備を持って行かなければならない!−が良く分かる。しかも再利用するということは、一つ一つの部品に、使い捨て型を遥かに超える耐久性が求められる。その上製造数が限られるため量産効果も期待できず、コストはいつまでも高止まりのまま……。。
 本書の出版(2003年)の後、スペースシャトルの後継機が使い捨てカプセル型になると発表された(火星目指すスペースシャトル後継宇宙船、「オリオン」に命名 - ITmedia NEWS)。宇宙ビジネスによる産業創出までをも視野に入れた本書の提言は、ますます重要性を帯びてきたと言えるだろう。
 と、言いつつも。
 なんだかんだ言って、やっぱり再利用型宇宙往還船って「ロマン」なんだよな! 21世紀になったら、一般人でも気軽にスペースシャトルに乗れる時代になると思ってたのに……。ミッションのたびに機体のほとんどを捨てるのって、やっぱりスマートには見えないよ。
 まあ、結局こんな「想い」が、現在の宇宙開発に漂う停滞感の遠因になったのかと思うと、複雑な気分にもなってしまうけれども。かつての第五世代コンピュータの様に、技術的水準に見合わない夢を追ったがゆえに、結局何も生み出せなかった例は多い。宇宙往還機もまた、いつか材料工学的ブレイクスルーによって本当に現実性を帯びるその日まで、大事にしまっておくべき夢だったということなんだろうなあ。
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