『グラックの卵』浅倉久志・編

 順調に刊行が続いている国書刊行会の「未来の文学」シリーズ。第二期第三回配本である今回は、浅倉久志の選出によるユーモアSF傑作選。浅倉編のアンソロジーと言うと、伊藤典夫と組んだ「スターマン」「スターシップ」「タイム・トラベラー」(いずれも新潮文庫)の三作が思い浮かぶ。どれも傑作ぞろいの名アンソロジーだったので、本作もかなり期待を持って読み始めました。

ネルスン・ボンド「見よ、かの巨鳥を!」

 本アンソロジー最初の短編は、名のみ高いものの、実物は日本初紹介の伝説的バカSF。表紙もこの作品に合わせたイメージなのかな。星雲の彼方から飛んでくる無茶苦茶馬鹿でかい鳥、というビジョンにしびれる。いかにも40年代らしい豪快な発想のお話だが、語り口が落ち着いているせいか、意外と古めかしい印象が無いのが面白い。

ヘンリー・カットナー「ギャラハー・プラス」

 「見よ、かの巨鳥を!」と同じ40年代作品だが、こちらは見事に古ぼけてしまっているのが痛い。悪い意味でいにしえの「科学小説」っぽい。というか、謎解き主体のお話なのに、謎が明らかになっても、so what? という言葉しか浮かばないのが辛いなあ。
 ただ、ナルシストのロボットと主人公との掛け合いは、かなり楽しい。このあたりはカートゥーンで見てみたい感じ。ロボット役は「アトミック・ベティ」のX-5ね。

シオドア・コグスウェル「スーパーマンはつらい」 ウィリアム・テン「モーニエル・マサウェイの発見」

 ミュータントにタイム・パラドックスと、どちらも手垢が付き捲ったテーマだけれども、アイデアに捻りが効いていて、現代でも十分に楽しめる。良質なアイデアSFのお手本のようなお話。

ウィル・スタント「ガムドロップ・キング」

 ちょっとした考えオチ。愛らしくて、ちょっぴりブラックな後味の小品。

ロン・グーラート「ただいま追跡中」

 話自体はあまり面白くないんだけど、これまた調子はずれなロボットたちの描写が笑える。

ジョン・スラデック「マスタースンと社員たち」

 本アンソロジーの裏の目玉かも。とある会社における事務職員とワンマン社長との駆け引きを、マジック・リアリズム的に描いた中篇。事務職員の身としては、妙に身につまされるところもあるような……。超現実的で毒のある描写と、言葉遊びや技巧を凝らした構成が筒井康隆を連想させる。
 スラデックの短編は「西暦一九三七年!」「古カスタードの秘密」を読んだ事があって、どちらも好きだ。

ジョン・ノヴォトニイ「バーボン湖」

 プリミティブなホラ話ながら、洗練された語り口で楽しませてくれる。オチが付いてるようで付いてない、オープンエンディングな所も、極楽っぽくて良い。アルコール万歳!

ハーヴェイ・ジェイコブズ「グラックの卵」

 ドタバタもセックスもたっぷり、オフ・ビートスラップスティック中篇。理屈抜きに楽しいです。


 個人的なベストは「マスタースンと社員たち」と「グラックの卵」。どちらもSF色は薄いけれども、独特のシュールな雰囲気が楽しいです。
はてな年間100冊読書クラブ 十三冊目)

グラックの卵 (未来の文学)

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