『クマムシ?!−小さな怪物』鈴木忠

 ベストセラーとなった『へんないきもの』でも取り上げられていたクマムシは、その強靭な生命力と怪異な容貌から、知る人ぞ知る奇天烈生物。本書はそのクマムシを専門で取り扱った本としては、日本初とのこと。なにしろ「岩波科学ライブラリー」なんてお堅い叢書をして「クマムシぬいぐるみ」プレゼントなんて企画をするあたりに、出版社の力の入れ様が分かります。
 緩歩動物門というマイナーな分類群に属し、有爪動物門(カギムシ)などとともに、節足動物門と近縁な系統に位置する。環境が悪化するとともにクリプトビオシス形態となり、極端な乾燥、高温、果ては放射線にも耐えうるクマムシ。そのマイナーさとサバイバル能力から、よほど特殊な環境に住んでいるのかと思われがちな生き物だが、実際には屋根や道端のコケといった身近な環境にも多数潜んでいるらしい。その割に一般的に馴染みが薄いのは、人間に害を及ぼすのでも、産業的に役に立つものでもないからだろう。
 従って専門家の数も少なく、日本ではこの著者くらいしかいないらしい。もっとも、自分以外に研究者がいないということは、パイオニアならではの苦労と喜びを体験できると言うことでもある。本書でも、四苦八苦の末クマムシの飼育に成功するあたりなど、生物系の仕事や趣味を持つものなら誰でも共感できるような体験が語られていて、実に面白く読める。ここらあたりは是非、この道を目指す子供達にも読んで欲しいところだ(ちなみに巻末にはクマムシの観察ガイドも載っている)。
 また興味深いのは、これらクマムシが、ハルキゲニア(有爪動物)やアノマロカリス(有爪動物、またはその近縁種か)と言ったいわゆるバージェス動物群などとともに、節足動物の進化の謎を解く鍵となり得る生物であるところだ。もっとも未だビビッドな話題であるためか、ここらあたりは本書では軽く触れられるだけである。
 なお「世界一可愛い微生物」との異名(?)に相応しく、研究黎明期の外国の図書から引用された貴重な図版が、多数収録されているのがうれしい。特に口絵で集合している、愛情あふれる筆致で描かれたクマムシたちの可愛さは必見です。
はてな年間100冊読書クラブ9/100)

クマムシ?!―小さな怪物 (岩波 科学ライブラリー)

クマムシ?!―小さな怪物 (岩波 科学ライブラリー)