『虫の味』篠永哲、林晃史

 昆虫関係の研究者二人が、とにかく色々と虫を食べてみる、という趣の本。
 基本的には、様々な調味法で虫を食べる体験談、コノ虫はなかなかいける、アノ虫はいまいち……と言った話と、その昆虫にまつわる薬学的なトリビア(本書の元となったのは、薬関係の雑誌での連載)がひたすら続く構成で、この手の本にありがちな露悪趣味、安っぽい文明批評が見られないのも、個人的には嬉しいです。
 いかにも学者さんらしく、淡々として、それでいてところどころユーモアを含ませた文体が楽しい。肝心の味についても、基本的には「香ばしい」「趣がある」「何々の虫に似ている」と言った簡素な描写なので、妙な臨場感を感ぜずに済むのがありがたい……自分みたいな虫嫌いの人間にとっては、特に。もっとも、どうも虫の味と言うのは割とどれも似たような味の様で、あまり細かく表現しようが無いというのが本当なのかも知れない。考えてみれば、昆虫とは近い種類であるところの甲殻類も、エビ、カニ、シャコと、どれも基本的には同系統の味だ(フジツボカメノテすら、あれほど姿が異なるのに、薄味とはいえ似た味だったりするし)。あと結局、頭抜けて美味しい虫となると、イナゴ、蜂の子、ザザムシ、蚕の蛹と言ったメジャーどころになってしまう様ではある。これも、美味しけりゃそれを食べるようになってる訳で、考えてみれば当然か。
 しかしシャコやウチワエビが食べられて昆虫は気持ち悪いというのは、我ながらやっぱり不思議な感じがする。タイの様に現在でも虫食文化が盛んなところで育っていれば、また別なんだろうなあ……。この著者の先生も普段はゴキブリを刺身で食べたりしてるのに、いざ中華料理屋のラーメンにゴキブリが入ってたりすると、げええ、となってしまうそうなので、それこそシチュエーションにも拠るのかも知れない。
 それにしても……

○ゴキブリ酒 正確にはゴキブリの卵鞘酒である。製造法は、クロゴキブリの飼育箱内に、数日、口の大きい酒徳利を入れておく。2−3日で徳利の底に十数個の卵鞘が産みつけられる。
 この徳利を水洗いし、酒を入れて燗をつける。出来るだけ熱燗がよい。
 酒が外観的には通常のものと差異はないが、若干、色が濃くて琥珀色が強くなる。
 味は結構で、二級酒が一級酒レベルの味になり特徴がある。
(中略)
 今回、実験的に作った「ゴキブリ酒」を愚息とその友人に飲ませたところ、好評で、しかもゴキブリ酒であることはまったく気づかなかった。
(p44)

 食べ終わって、彼のいうには「たいへん見事」でした。今年も、元気で過ごせるだろうと、大層満足しているので、実は糞食い虫を入れたとはいえなかった。
(p156)

 小生の行きつけの、居酒屋の女将に、お土産にいただいた九州地方の名物「子持ち団子」と称して提供した。若干、不信な表情はしたが、それでも、変った団子ですねと言って食べていただけた。ただし、翌日になって、私の特選珍味であることを自白したところ、三日ばかり口をきいてもらえなかった。
(p177)

 ……こういう人の家族も、大変そうではあるなあ。
はてな年間100冊読書クラブ6/100)

虫の味

虫の味