『愛のひだりがわ』筒井康隆

 治安が悪化し、人心が荒廃しつつある近未来の日本。左手に障害を持つ少女、愛は、生き別れた父を探すため一匹の犬とともに旅に出る。
 母親を失った少女が肉親を求めて旅に出る。その傍らには一匹の犬。少女は旅の途中で様々な人々の助けを得て、精神的に成長していく。やがて経済的にも自立、成功した主人公は、肉親との再会を果たす……要するに本作は筒井版「ペリーヌ物語」(原作「家なき娘」よりもアニメ版の方が雰囲気が近い)。
 近未来の酷薄な状況と、簡素な人物描写のコントラストが印象的。「ラッパを吹く弟」など初期短編の頃から見られる、筒井康隆独特のリリシズムが心地良い。
 作品中、5年の月日が流れ、少女や少年は多くの人の愛に包まれ、人生を垣間見るうちに、そのキラキラした才能を失い、大人となっていく。喪失と成長を表裏一体のものとして描くラストシーンには、これぞ「正しいジュブナイル」だと強調したい。
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愛のひだりがわ (新潮文庫)

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