『Vフォー・ヴェンデッタ』アラン・ムーア、デイヴィッド・ロイド

 映画化もされたアメコミの名作。全体主義国家と化した核戦争後のイギリスを舞台に、謎のアナーキスト「V」の活躍を描く。
 さまざまな登場人物を巡るエピソードが(時に時系列が錯綜する形で)断片的に語られ、クライマックスに向けて一気に収束していく。繊細でダイナミックなストーリーは、いかにもアラン・ムーアだと思う。全体的に暗く、シリアスな雰囲気なのに、奇妙なユーモアが感じられるのが良い。
 思えば『ウォッチメン』をはじめて読んだとき、メインとなる事件のホワイダニットとして用意されてたのが、まるで50年代ショートショートの様だったのに、ずっこけた覚えがある。何十万人もの死屍累々の描写と、釣り合わないように感じたのだ。今となればそういうところも好きだし、一種の「隙」があるのもアメコミの「らしい」ところだとも思う。これは一種のビザール趣味と言えるかもしれないけれど……。
 この『V』でもそういうところがあって(例えば、敵のリーダーであるアダム・スーザンを、彼のコンピュータへの「恋心」を利用して精神攻撃するところとか)、そこが自分にとっては愛らしい。うがち過ぎかもしれないけど、アラン・ムーアは、意識的にこういうところを作っているんじゃないだろうか。
 ちなみにアマゾンのカスタマーレビューを見ると、映画から興味を持って初めてアメコミを読んだ、という人からも概ね高い評価を受けてます。うーん、素晴らしい。