『ハリウッド・ノクターン』ジェイムズ・エルロイ

 「暗黒のLA四部作」「アンダーワールドUSA三部作」のエルロイによる初の短編集。
 この作者に関しては大部の長編小説の印象が強いので、解説の滝本誠が「実は短編の超名手」と持ち上げて見せてもどうにも半信半疑な気持ちがぬぐえないまま、読み始めた本。ところがなかなかどうして、短編でもやっぱりエルロイはエルロイだった。裏切り、欲望、悪徳、腐敗、そして忘れちゃいけないゴア・シーンと、長編同様のこってりぶりを楽しめました。
 リー・ブランチャード(ブラック・ダリア)やバズ・ミークス(ビッグ・ノーウェア)と言った長編作品で忘れられない輝きを残した登場人物が、短編で主役を張ってるのもうれしい。もっともバズ・ミークスは「L.A.コンフィデンシャル」冒頭で***しまっているので、これはパラレルな世界の出来事ということなんだろうね。その他ハワード・ヒューズやミッキー・コーエンと言った実在人物を巧みに物語中に織り交ぜて見せるやり方も、短い尺の中にスケール感を感じさせる妙味になってる。これらの短編もまた、エルロイが再構成してみせたUSA闇の歴史に連なる一本である、ということ。
 一番印象に残ったのは、近作では珍しく現代を舞台とした作品である「甘い汁」。エルロイの犬への深い愛情を感じさせる逸品で、最後の一センテンスではハーラン・エリスン「少年と犬」を思い出してニヤリとした。エルロイ作品は、ドロドロにダークな展開の中、どこか少年的な純粋性を感じる事があるのだが、そこらあたり、合点が行ったと言う感じ。少年の一番の友は、やっぱり犬なんですなあ。

ハリウッド・ノクターン (文春文庫)

ハリウッド・ノクターン (文春文庫)