『バロン』

zeroset2006-01-21

 土曜日に、久しぶりにテリー・ギリアム『バロン』のDVDを観ました。いやぁ〜やっぱり良いですねえ。
 原題は"The Adventures of BARON MUNCHAUSEN"。ミュンヒハウゼン男爵……というか要するに「ホラ男爵の冒険」ですね。子供の頃、大好きな話でした。もっとも映画は単におとぎ話を映画化したというわけではなく、一種のメタフィクションとなっています。
 ところでこの作品、今見返すと『ハウルの動く城』と共通したモチーフがいくつか見受けられるんですよね。宮崎駿だと『On Your Mark』が明らかに『未来世紀ブラジル』の影響下にある作品ですが、やっぱりギリアムのファンなんだろうなあ。

18世紀のドイツはトルコ軍の攻撃にさらされ、飢えと貧困にあえいでおり、人々は悲惨な現実から逃避できず、夢や空想を忘れていた。しかし、空想好きな 10才の少女サリーだけは、伝説の英雄バロンがいつの日か現れ、街を救ってくれると信じていた。そして、激しい戦闘の末、廃墟と化す寸前の街に忽然とひとりの男が現れた。彼は自分が伝説の主人公バロンだと名乗るが人々は誰も信じない。だが、サリーは彼に「昔の仲間を探してトルコ軍をやっつけて。」と懸命に頼む。しぶるバロンもサリーの熱意に負け、仲間を探しに気球に乗って冒険へと旅立つ。
紀伊國屋書店ウェブストアより

 おそらく、オスマン・トルコによるウィーン包囲戦がモデルなんでしょうね。年代は違うけど。



 バロンの爽やかな笑顔。歯がキラーンと光ります。彼のホラと人々の想像力が、現実をも改変するのです。

 バロンとともに冒険の旅に出る少女、サリー。この映画の魅力の3分の1くらいは彼女によるものと言っても過言では無い!と思う……。演じるは当時9歳のサラ・ポーリー。時にはバロンを死神から救い(一番上のキャプチャ参照。天使のように見えるシーンが印象的)、時にはハッパをかける元気で意志の強い女の子。いかにも、な美少女じゃないところがまた良いんだよなあ。みそっ歯だし!

 バロンの家来、韋駄天バートホールド(エリック・アイドル)。このキャプチャ、何をしているところかというと、超高速で走って弾丸を掴もうとしているところ。このように、随所にカートゥーンっぽい表現を意図的に取り入れてます。

 バロンの家来たち。左から千里眼アドルファス(演じるはチャールズ・マッケオン。ギリアムとともに脚本も担当)、怪力アルブレヒト、サリーの隣が地獄耳グスタバス、そしてバートホールド。

 トルコ王と、彼の考案した新式オルガン。裏には奴隷たちが入っていて、鍵盤を押すごとに刃やトンカチで悲鳴を上げさせて演奏する仕組み。

 ロビン・ウィリアムスの怪演が印象的な、月の王。パラノイアで、宇宙そのものが自分の思考の産物であると信じています。
「コギト・エルゴ・エス。我思う、故に君有り。ハハハ……」
 ところが首と胴体が繋がると、途端に下品で脂ぎった性格に早変わり。
「グヘヘヘ、いいだろ、一緒に楽しもうぜ〜。象さんだよ〜、パオ−ン!」

 鍛冶屋の神、バルカン。エトナ山の地下でサイクロップスたちをこき使いつつ、空間と時間を超えて世界中に武器輸出中。
「これはRX型大陸間弾道ミサイルだ……これの一番良いところはだな、お嬢ちゃん。殺した相手の顔を見なくて済むところだよ」

 バルカンの妻、ビーナス。ボッティチェリ「ビーナスの誕生」そのまんまに登場。演じるはユマ・サーマン。サリーの姉(?)の役も二役で演じてますが、確かに雰囲気似てます。

 官僚主義の権化、ホレイシオ・ジャクソン。冒頭、一人で突撃して敵を殲滅した勇敢な兵隊(ミュージシャンのスティングが特別出演)を「規律を乱したから」という理由で処刑します。演じるのはギリアムの前作『未来世紀ブラジル』の主役を務めたジョナサン・プライス。『ブラジル』は究極の管理社会の中、夢を追う小役人が破滅する姿を描いた作品。
 トルコ王と裏取引を行っていたジャクソンは、バロンに見咎められ、こう言い返します。
「現実を見ず、夢を追うものは惨めな最後を遂げるだけだ!」
 前作での役どころを思い起こすと、あまりにも印象的なシーン。『ブラジル』と『バロン』はそれぞれ完全に独立した話ですが、姉妹編と言ってもいい関係にあり、両方見ることで感慨も更に深くなります。

 民衆に銃を向ける軍隊。製作は事件前のはずですが、日本公開時(1989年)には嫌が応にも天安門事件を連想させられました。
 
 そして、ラストシーン。『バンデットQ』『未来世紀ブラジル』と続いて見てきた自分はこのシーンで涙が出ましたよ。映画配給会社からの圧力と闘い自分流のストーリーを貫き通してきたギリアムが初めて描く、ヌケヌケとした、しかし素晴らしいハッピー・エンド。
「やっぱり本当の事だったのね!」

テリー・ギリアム映像大全

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オマケ


 『バロン』より10年後、クローネンバーグ『イグジステンズ』に出演したサラ・ポーリー嬢。大きくなって更にユマ・サーマンに似てきましたね……。出演時間は短かったですが、結構印象的な役どころでした。最近では『ドーン・オブ・ザ・デッド』の主役もやってますね。
 サラは『バロン』の後、「赤毛のアン」のスピンオフ・ドラマ『アボンリーへの道』の主役を務めます。が、とある受賞式で湾岸戦争に反対するメッセージを付けた衣装を会社の猛反対を押し切って着続けたことで、ドラマから干される事になりました。この時僅か12歳。その後はハリウッドのメジャーな映画からは一線を画した、印象的な映画に出続けています。