『免疫と腸内細菌』上野川修一

 連れ合いが花粉症なので、最近アレルギー関係について調べることが多い。そうした中、割と「ヨーグルトはアレルギー体質改善に効果的」という話を良く聞く。そこで我が家では毎朝ヨーグルトを食べることになった。……まあ、効き目については未だあやふやな感じではあるのだが……。で、そもそも一体何故、消化管中に入るだけ(消化管の中もトポロジー的には「体外」だ)の乳酸菌が、アレルギーなどという全身の免疫系が関わるシステムに影響を及ぼすのか、そのメカニズムについて知りたいと思って、読んだ本。
 活字が大きく、平易な表現で書かれているので、とても読みやすい。もっとも、そのためにはじめは乳酸菌飲料メーカーの販促めいて感じられたりもしたが……。ところが実際は乳酸菌賛辞一色というわけでは無く、その限界も含めて、公正に事実を伝えようとしている誠実さを感じる本だった。
 免疫系においては「自己」と「他者」とを区別し、その上で「他者」でも有害なものと無害なものを見分ける必要がある(これをデンジャーセオリーという)。そこのあたりの仕組みの精巧さは、まさに進化の妙とでも言うべきものだが、それでも完全、というわけにはいかない様だ。「自己」と「他者」の区別が付かなくなると自己免疫性疾患(要するに自分で自分の細胞を壊し始める)に、「他者」なら無害なものにでも反応するようになるとアレルギーとなる。免疫反応において重要な役割を果たす細胞にTh1細胞とTh2細胞があるが、Th1細胞が優勢になると自己免疫性疾患に、Th2が優勢になるとアレルギーになるということで、―要するにこの二つの細胞の量にバランスが取れている必要があるということらしい。
 腸管免疫系においては、グラム陽性菌を感知するシステムがあり、これが働くとTh1細胞を優勢にさせるらしい。乳酸菌もグラム陽性菌であるので、これによりアレルギーを抑えてる、というわけ。しかし逆に言うと、自己免疫性疾患の方は起こり易くなるような気がするが……そこのあたりは、何事もバランス次第、ということなのだろう。実を言うとこの本には、体内を完全に無菌状態にしたマウスは1.5倍も寿命が延びる、という身も蓋も無い事実も記してある。異種の生物に常時触れている以上、それがいわゆる「有益菌」であっても、やはり何らかのストレスを与えている、ということか。逆に「悪玉菌」といわれるものも、免疫の発現に重要な役割を果たしていたりする。
 また、乳酸菌には人それぞれと相性があって、相性の会わない菌を摂取しても効果は無いようだ。消化管中は多種多様な菌による小生態系となっているが、そのバランスは基本的には個人個人の免疫によって決定されている。つきつめれば遺伝子の問題、ということになる。将来的には遺伝子の解析によって個人個人にオーダーメイドされた菌を使う、という方法も考えているようで、これはちょっと面白いと思った。
 ところで、デンジャーセオリーを提唱した学者、ポーリー・マッチンガーは、なんと「プレイボーイ」誌の元カバー・ガールだったらしい。う〜ん、ちょっと見てみたい……。

免疫と腸内細菌 (平凡社新書)

免疫と腸内細菌 (平凡社新書)