ベティ・ブープ"Crazy Town"

zeroset2005-09-23

 一ヶ月ぶりのベティ・ブープ紹介、今回は1932年の作品"Crazy Town"(邦題「ビン坊の万事あべこべ」)です。1932年というと以前紹介した"Betty Boop M.D."がこの年の9月製作、この作品は3月製作(公式ページによる)、半年ほどの違いですが、このころはまだシュールな事態が淡々と続くという感じで、全盛期の頃のような異常なドライブ感はありません。ベティ・ブープというシリーズ、万事スタッフのノリが全て、というところがあり、この頃はまだノリきって無かったんでしょうね。それでもこの作品は結構気に入ってる一本です。ちなみに筒井康隆の評価は、下記のような感じ。

ベティさんの魅力はまだまだ爆発的でない。しかし怪奇ギャグの傑作として70点はつけてもよい作品だ。
(『ベティ・ブープ伝』p28)

 
 今回のオープニングは実写。「ヤッチャッチャー!」などと合いの手を入れながらベティさんとビンボーが歌う中、タイトルの書いてある本が登場します。実写の手がページをめくると、電車の屋根に乗っているベティさんたちの絵。電車の鐘がカンカンカンと鳴るとともに絵が動き出し、アニメーションが始まります。

 線路からはみ出しそうな勢いで走る電車。その上で歓声をあげるベティとビンボー。はじめっから良いノリですねえ〜。
 やがて、ビンボーがパンタグラフの電線を弦楽器の様にビョンビョンビョンと弾いて(一番上の画像)、二人で歌い始めます。
 
  
 二人で歌うは、今回のテーマ曲"Let's go crazy"。最後、抱きついたビンボーの手を、ベティさんがちょっと怒った顔して上にずり上げてるのが、大人向けの小ネタ。

 電車が目的地に付き、屋根から飛び降りるベティたち。電車は地面に空いた小さな穴ににゅうううぅっと吸い込まれていきます。

 別の電車に乗り込む二人。しかし電車は地面に固定されており、かわりに遠くに見える街そのものが移動して(良く見ると下に巨大な車輪が付いている)、次から次へと入れ替わっていきます。目的の"Crazy Town"が来た所で電車を降り、街へ向かう二人。

 街に着いた二人。今回このエントリの為に見返したんですが、良く見ると街の風景そのものも、かなりシュールなたたずまいですな。二人が近くの池を見ると、魚が空中を飛び回り、鳥が水中に泳いでいます。
 
 道の向こうから、帽子を履いて靴をかぶった人がやってきて挨拶、その場で足踏みすると、遠近法の要領で小さくなって消滅してしまいます。
 続いてやってきた象。歩くたびに鼻が箱のような形に変形します。
 先ほどベティたちを乗せてやってきた電車の運転手(他のベティものにも良く出てくる、準レギュラーキャラの爺さん)が逆立ちして登場、バナナの皮を食べ中身を捨てて立ち去ります。奇怪な出来事の連続に怯える二人。

 更には馬が人間を追い、魚が人間を釣る……万事あべこべな世界。

 二人は散髪屋と美容院に入ることにします。ビンボーが理髪師代わりに散髪。禿げたの男の頭に鋏を当てるとニョキニョキと髪の毛が生え、逆にフサフサ頭の男にトニックを塗って髪の毛を抜き取ります。

 ベティさんは美容院を見学。そこへやってきた女、自分の頭を引っこ抜いて、陳列してある頭を替わりに取り付けます。……要らなくなった頭を投げ捨てているのが怖い。次にやってきた女がベティの顔を見て大喜び。「この頭と換えて頂戴!」。ベティさん、あわてて逃げ出します。
 次にやってきた動物園もメチャクチャ。サイがニャーと鳴き、ネズミがライオンのごとき声で咆哮をあげています。

 さて、収拾の付かないまま、お話もなんとなくクライマックス。何の前触れもなく、ビンボーの足元の地面からニョキニョキと生えてくるピアノ。早速ビンボーがピアノを弾くと、観客もわらわらと集まってくる。

 ベティさんも"Let's go crazy"を歌いながら踊り始めます。筒井も指摘しているように、全盛期に比べるとベティさんのダンスはまだぎこちない感じ。でも見ようによっては気だるげに踊っているようにも見え、これはこれで雰囲気に合ってる様な気も。
     
 続いて、ビンボーのピアノソロ。まるでピアノと格闘するかのように鍵盤を叩いてます。メチャクチャな弾き方なのに、それでも動きが音楽とシンクロしてて、ちゃんと弾いてるように見えるところがスゴイ。個人的にここからラストにかけての一連のシーンは、かなり気に入ってます。
  
 演奏はクライマックスに。乗りに乗ったビンボーはピアノを空中に放り投げる。落ちたピアノはバラバラに……

 するとピアノの断片が、それぞれ小さなピアノにモーフィング。ベティさんがその上を歩くと、踏んずけられるたびにピンポンパンポンッとメロディを奏で、"Let's go crazy"の曲を締めくくります。
 
 ベティさんの手を取って、くるくると振り回すビンボー。勢いあまって自分の体もねじれてる。

 そして二人見詰め合って……

 ンー、ンムー、とリアルな吐息を立ててキスする二人。ベティ・ブープカートゥーン"Crazy Town"、これにて一巻の終りであります。
 個人的にはこの作品、やはり最初と最後のミュージカル・シーンのノリの良さが印象的です。このノリが作品全体にわたって続き、更にシュールな怪奇ギャグと有機的に結合したところで、全盛期の傑作群が生まれたんでしょうね。また、ラストシーンの洒落た可愛らしさも印象的だと思います。
今までのベティ・ブープ関係エントリ

Betty Boop's May Party [VHS]

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