『ΑΩ』小林泰三

 謎の敵「影」を追って地球へ飛来したプラズマ生命体「ガ」。不注意から旅客機を墜落させてしまった「ガ」は、その乗客・諸星隼人と一体化した。やがて、突如出没し始めた怪獣と、超人に変身した諸星の戦いが始まった……
 小林泰三の本を読むのは実は初めて。というか自分、最近の日本人作家のジャンル小説って、全然読んでない。別に何か偏見があるからじゃなくて、なんとなく縁が無かっただけなのだが、何か凄く面白いものを見逃してたりするのも癪なので、これからしばらく、ちょっと意識して読んで見たいと思う。
 あらすじを読んでピンと来る人も多いだろうけど、本作は小林泰三版「ウルトラマン」。時間制限つきで変身する白銀の巨人に、必殺技は腕から発射するプラズマ弾(後半にはロケットパンチも披露)。掛け声も「ジョワッ」「ヘアッ」「ダッ」だ。もっともイメージソースはウルトラマンだけじゃなくって、例えば敵である「影」の設定は、殆どスティーヴン・バクスターのSFに出てくる「フォティーノ・バード」だったりする。ホラー風の序章から、第一章冒頭で突然宇宙へ舞台が飛んでハードSF風になるのにはびっくりだ。かと思えば地球での描写はひたすらスプラッタだし。その他「物体X」風だったり、クトゥルフっぽかったり、「デビルマン」そっくりのシーンがあったり、雑多なイメージが猥雑に一体となっている(ジョジョネタまである「貧弱、貧弱ぅ!」)。
 もっとも、一番雰囲気が近いのは筒井康隆スラップスティック小説だろうか。モロ「トラブル」*1ですね。正直言うと、冒頭の遺体安置所のシーンは、そのあまりの「ありえなさ」にかなり引いてしまったのだが、上記の類似に気が付いた途端に合点がいった。「ああ、ドタバタ小説なんだな」と。で、以後は不自然な会話や感情移入できないほどカリカチュアされた登場人物たちも気にならず、ひたすら頻出されるブラックなギャグを楽しむことが出来ました。いい意味でも悪い意味でもB級作品なんだけど、小ネタの数々とパワフルなスプラッタ描写でぐいぐい読ませてくれる一作。もっとも、長編よりは中編向けくらいな話の様にも思うのだが……
 個人的にはラストシーンのSF的な美しさが印象的だった。

ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚 (角川ホラー文庫)

ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚 (角川ホラー文庫)

*1:敵対する宇宙人がサラリーマンやマスコミ人に取り付き、超人的なパワーでスプラッタな「バラシ合い」をさせるお話。